脱「官製春闘」 賃上げ機運に水を差すな

西日本新聞

 経団連が2019年春闘で経営側の指針となる「経営労働政策特別委員会報告」をまとめた。既に連合も労働側の指針「春季生活闘争方針」を発表しており今後、3月中旬の集中回答日に向け、春闘が本格化する。

 ここ数年、政府が産業界に賃上げを要請する「官製春闘」が続いてきたが、今年は経団連が脱「官製」の姿勢を明確にし、労使の徹底した議論による賃上げ決定や、柔軟な働き方など「総合的な処遇改善」を会員企業に呼び掛けた。連合も賃上げの継続と、大手と中小、正規と非正規の格差是正に重点を置いた闘争方針を示している。

 そうした中、労使交渉の転換点とも言える大きな変化がうかがえる。賃上げを巡り、基本給全体の水準を底上げするベースアップ(ベア)偏重の交渉に、労使とも距離を置き始めたことだ。「官製」後の新しい春闘の在り方を探る好機としたい。

 今年、連合は2%程度のベア要求を掲げはしたが、数値は4年連続で据え置いた。自動車総連もベアの統一要求額の提示を見送る方針だ。経団連も昨年はベアなどの引き上げを「社会的要請」と踏み込んだが、今年は賃上げには多様な方法があり「収益が安定的に拡大している」企業などではベアも「選択肢となる」-と慎重姿勢に転じた。

 年功序列の賃金体系が揺らぎ成果型報酬の企業も増える中、横並びでのベアは実態とずれてきているほか、賃金の土台が違う大手と中小の格差固定につながる側面もある。ただ今後、春闘の在り方が見直され、ベアという目標が曖昧化すれば、賃上げの水準は不透明となって経営側の意向が優先され、賃上げ機運はしぼむ懸念も残る。

 九州の地場企業でも昨年まで、全国の流れと同様に、ベアを含む賃上げの動きが広がりつつあった。中小企業も人材をつなぎ留めるため賃金改善に踏み込んだところが目立ち始め、大手を中心に年間労働時間や時間外労働の削減で労使協議がまとまったケースも見られた。

 こうした動向に水が差されれば、東京をはじめ大都市圏との人材確保競争にも影が差し、負の連鎖に陥ってしまう。

 今、世界経済の減速や米中貿易摩擦など不安材料は尽きない。昨年12月の日銀九州・沖縄短観では、製造業の業況判断指数がプラス13と前回9月調査から2ポイント悪化した。非製造業はプラス20と2ポイント改善したが、先行きはともに悪化を予想した。

 楽観はできない中、脱「官製春闘」で元のもくあみとなっては本末転倒だ。地場企業は過度に萎縮せず、将来の成長を見据え、人材への投資充実を念頭に春闘に向き合ってほしい。

=2019/01/28付 西日本新聞朝刊=

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