「1919年建国」 揺れる韓国 「独立運動時が起点」文政権主張

西日本新聞

 韓国は今年、日本統治時代の朝鮮半島で独立運動に火がついた1919年からちょうど100年の節目を迎える。文在寅(ムンジェイン)政権は記念日の3月1日を北朝鮮とともに祝い、運動の拠点として「大韓民国」の国号を掲げて中国・上海に臨時政府が発足した同年4月を建国のルーツと位置づける考えだ。国際的には、李承晩(イスンマン)元大統領が国家樹立を国際社会に宣言した48年8月15日が建国の日として認知されてきたため、大きな方針転換になる。揺れる「歴史観」は、国内に混乱や動揺を招くだけでなく、慰安婦問題や元徴用工問題といった対日外交問題にも響く。日韓の専門家に見解を聞いた。 (ソウル曽山茂志)

 ●保守派の正統性を拒否 誠信女子大教授(国際政治) 金 暎浩氏

 国家の成立条件を知らないはずがない文在寅大統領が、中国・上海に大韓民国臨時政府が発足した1919年4月11日を事実上、建国の日とみなすのは、48年の李承晩大統領から続く保守系政治の正統性を拒否して、南北分断前の臨時政府を国家の根拠にする狙いがあるのではないか。背景にあるのは、同じ言語を使い、血縁や歴史観を重んじる一種の「ロマン主義」とみている。

 ロマンを語るだけであれば罪はないが、文氏の考え方は二つの危険性をはらむ。一つは外交政策。例えば、65年の韓日基本条約には、韓国を48年に国連で承認された「朝鮮半島にある唯一の合法政府」と明記されている。「1919年建国」を主張すれば、条約の信頼性が揺らぎかねない。

 文政権は北朝鮮との融和を急ぐあまり、敵と味方の区別ができなくなっている。昨年以降、北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長は米国や韓国との対話路線に転換したようにみえるが、今年の「新年の辞」では保有核の処分には触れず「これ以上制裁を続ければ、新しい道を模索せざるを得ない」と米国を威嚇した。実体は何も変わっていない。

 文氏は今年3月1日の独立運動記念日100周年を北朝鮮とともに祝うと主張している。しかし、北朝鮮にのめり込みすぎると、安全保障の基盤である韓米同盟が危うくなり、結果的に文氏が目指す朝鮮半島の非核化が遠のく。これが二つ目の危険性だ。そもそも民主化運動によって独立を勝ち取った韓国と、金日成(キムイルソン)主席の抗日革命史だけを正統化している北朝鮮では、歴史観が全く異なる。

 米国が主導する国際社会の制裁下では、文氏が目指す南北融和政策には限界がある。内政的にも失業対策などの経済政策が不振で文氏の支持率は落ちている。朴槿恵(パククネ)前政権を弾劾した勢いで突き進んできた文政権だが、今年は失速するとみている。

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 ●民主国家目指した原点 春川教育大教授(韓国近代史) 金 正仁氏

 文在寅大統領は2017年5月の就任以来、中国・上海に大韓民国臨時政府が樹立された1919年4月11日を「建国の日」と何度か言及したが、最近は(保守層からの指摘もあり)あまり発言していないはずだ。ただ、国家の出発点とみているのは確かだ。

 歴代の保守政権は、臨時政府を単なる民族主義、抗日独立運動と解釈してきた。しかし、国政を私物化した朴槿恵前大統領の弾劾、罷免という一連の大きな流れの中で、国民に「民主主義」という視点で歴史を肯定的に再評価する考えが広がった。民主主義、共和国家を目指した臨時政府を国家のルーツと考えるのは必然だった。

 文政権は100周年の今年4月、上海で記念式典を開き、ソウルには約473億ウォン(約47億3千万円)を投じて臨時政府記念館の建設を宣言する予定だ。準備が追いつかずにまだ設計段階だが、21年の完成を目指す。

 臨時政府樹立に先立って1919年3月1日に起きた大規模な独立運動の記念日の100周年もソウルを中心に韓国全土で盛大に祝う。昨年9月の南北首脳会談で確認したように北朝鮮とともに合同記念式典や前夜祭を開催する方向で調整している。会場は、ソウルか北朝鮮の平壌、軍事境界線がある板門店のいずれかになる見通しだ。現時点で北朝鮮側から具体的な回答はないが、首脳会談での約束は必ず守られるだろう。

 「独立運動記念日」「臨時政府樹立」100周年で共通する文政権の姿勢は、日本からの「独立」を強調するのではなく、恒久的な「平和」への願いだ。文政権の歴史観が反日的だとの指摘があるが、日韓の市民、経済交流は一貫して拡大してきた。隣国だけに敏感な関係ではあるが、なぜ政府間の関係だけが悪化しているのか。日韓双方が真剣に考えるべきだ。

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 ●日韓関係 土台失う恐れ 新潟県立大教授(比較政治) 浅羽 祐樹氏

 1919年に中国・上海で設立された「大韓民国臨時政府」は、「領土と住民に対して実効支配を及ぼす政府の存在」という国家の条件を満たしていない。臨時政府を支援した中華民国でさえ国家として承認しなかった。それを大韓民国の建国とする文在寅政権の考え方には無理がある。

 本来、国家がそれぞれの「建国」をどう位置づけるのかは内政問題だ。やっかいなのは、文政権の歴史観が対日政策に直接影響していることだ。10年から45年までの日本統治は「強制占領」にすぎず、不法である。この理解に基づき、65年の日韓基本条約で互いがぎりぎりで歩み寄った「もはや無効」という決着を、「そもそも無効」として、一方的にご破算にしようとするようにも見える。

 文氏を支える進歩派には、日本の支配を受け入れ、解放後もそのまま支配階級になった「親日派=保守派」によって歴史が再びゆがめられたとの認識が根底にある。初代大統領の李承晩氏や日韓国交正常化を実現させた朴正煕(パクチョンヒ)氏に正統性はなく、そうした親日派の過去を正すことこそ、朴槿恵前政権を倒した「ろうそく革命」の申し子である文政権の自負といえる。

 慰安婦問題に続き、韓国最高裁が日本企業に賠償を命じた元徴用工訴訟が、大きな政治問題になっている。文氏は、日韓請求権協定は破棄しないと主張しているが、このまま「司法の判断を尊重する」と事態を静観すれば、協定は事実上骨抜きになり、国交正常化以降の土台が失われる。「合意は守られなければならない」というのは、国際社会の原理原則である。

 昨年末の韓国海軍の駆逐艦による自衛隊機へのレーダー照射問題は、日韓の政治的対立が防衛を巡る戦略的利益にまで波及しているように映る。このままでは、日韓関係が修復不可能なレベルまで悪化する懸念がある。

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 ●韓国建国を巡る論争

 韓国の保守派と進歩派との間で続く歴史論争。保守派は、初代の李承晩大統領が大韓民国の樹立を宣言した1948年8月15日が建国に当たり、国際社会も承認したと指摘。朴槿恵前政権は「48年に大韓民国樹立」とする国定教科書の編集を進めた。

 これに対し、進歩派は1919年3月1日に始まった大規模な抗日独立運動の中、同年4月11日に中国・上海に設立された大韓民国臨時政府が建国に当たると主張。大統領就任直後に国定教科書導入を中止した文在寅氏は2017年8月15日、日本の植民地支配からの解放を記念する「光復節」の演説で「国民主権は臨時政府樹立による大韓民国建国の理念となり、今日、私たちはその精神を受け継いでいる」と明言して、臨時政府樹立が建国に当たるとの考えを改めて表明した。一方、48年8月15日は政府樹立の日とする方針だ。

=2019/01/28付 西日本新聞朝刊=

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