首相施政方針 行政の信頼回復してこそ

西日本新聞

 通常国会が召集され、安倍晋三首相が施政方針演説をした。「全世代型社会保障への転換」「成長戦略」「地方創生」「戦後日本外交の総決算」と得意のキャッチフレーズが並ぶ。首相は自ら展開してきた安倍政治、アベノミクス、安倍外交の成果と課題を縦横無尽に語った。

 対照的に、国民の関心も高い「統計不正」問題は陳謝こそしたものの、淡泊な言及で済ませた。なぜか。もっと危機感を募らせてしかるべきだろう。

 昨秋の自民党総裁選で連続3選を果たした首相は、戦後最長はもとより憲政史上最長という長期政権(第1次政権を含む)を視野に入れた。

 そこで迎えた「平成最後の施政方針演説」である。演説の節目で「平成の、その先の時代」という言葉を何度も繰り返し、「歴史の転換点」に立つ指導者であることを印象付けようとした。その背景に、春の統一地方選と夏の参院選という政治決戦で民意の審判を受ける事情があることは言うまでもない。

 とはいえ、記録的な長期政権に臨む首相の前途は決して楽観できない。社会保障制度を全世代型へ転換するため、首相は10月に消費税率を10%へ引き上げると言明した。軽減税率の導入やプレミアム付き商品券の発行など「頂いた消費税を全て還元する規模の対策」を力説したが、ばらまき政策との抱き合わせでは「何のための増税か」という批判を免れまい。

 戦後外交の総決算といえば、北方領土問題の対ロシア外交が浮かぶ。首相は日ソ共同宣言に基づく平和条約締結交渉の「加速」に重ねて意欲を示した。「次の世代に先送りすることなく必ずや終止符を打つ」と言うが、その根拠を聞きたい。拉致、核、ミサイル問題の解決へ北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長との首脳会談にも意欲を示したが、実現の道筋はどうなのか。

 何より気になるのは、厚生労働省の毎月勤労統計で発覚し他省庁にも波及した統計不正問題だ。首相は雇用保険や労災保険の過少給付に関し「速やかに不足分をお支払いいたします」と約束した。当然である。問題は「再発防止に全力を尽くす」という誓いをどう実現するかだ。

 厚労省の特別監察委員会による検証報告は身内によるお手盛りだった疑いが強まっている。事態を甘くみてはいけない。

 決裁文書の改ざん、日報の隠蔽(いんぺい)、データのずさん処理、障害者雇用数の水増し、今度の統計問題と「官の不正」はなぜ相次ぐのか。疑惑の核心にメスを入れ、行政の信頼を回復することこそ急務である。それなくして長期政権の成果と意欲ばかり語られても説得力に欠ける。

=2019/01/29付 西日本新聞朝刊=

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