リビングラボ 商品・サービス開発 住民がアイデア 暮らし実験室 企画から検証 「企業目線は限界」 産学官民で

西日本新聞

ロボット掃除機を使用した感想を話し合う「鎌倉リビングラボ」の参加者たち 拡大

ロボット掃除機を使用した感想を話し合う「鎌倉リビングラボ」の参加者たち

 日常生活で困っていることやアイデアを住民に持ち寄ってもらい、企業や自治体が新しいサービスや商品の開発・検証に生かす「リビングラボ」という試みが各地で広がっている。企画段階から住民が参加することで、本当に必要とされているものが生み出されるだけでなく、地域の課題解決や孤立防止にもつながると期待されている。

 「面倒だった2階の掃除が楽になった」「スマートフォンで外出先から操作できるのは便利だね」

 神奈川県鎌倉市今泉台地区の町内会館。60~70代の夫婦5組が集まり、ロボット掃除機を2カ月間使った感想を話し合っていた。「鎌倉リビングラボ」の活動の一幕だ。

 家電のスマホ操作をシニアがどう感じるかを調べようと、日立アプライアンスが協力を依頼した。同社商品戦略本部の森川祐介商品計画部長は「想定していたシニアの世界と現実にギャップがあった」と驚く。音声ガイド機能があればどうか、と提案すると「おせっかい過ぎる」との意見。予想以上に機器をスムーズに使いこなしていた。「開発につながる大きなヒントをもらった」と満足げだ。

 参加した男性(69)は「単なるモニターではなく、開発者の一人という気持ちでやりがいがある。ラボには、1人暮らしのシニアも参加し、孤立防止にもなっている」と話す。

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 今泉台は、住民約5千人のうち45%が65歳以上と高齢化が進む。鎌倉リビングラボは、東京大、同大と協力関係にある企業、鎌倉市、今泉台の住民が地域活性化を目指して2017年1月に立ち上げた。

 これまで手掛けたプロジェクトは約20。オフィス家具のイトーキとは「在宅勤務が可能になれば、若い世代が住みやすくなる」という発想から、在宅勤務用家具の開発に取り組んだ。住民の声をもとに完成したついたて風の机と3パーツに分かれて持ち運びしやすい机は、今春発売される予定だ。

 同社商品課企画チームの藤本有希係長は「これまでより時間はかかったが、住民目線のものだからと、自信を持って作れた。これからの時代、企業目線のものづくりには限界を感じている」と話す。

 東京大高齢社会総合研究機構の秋山弘子特任教授は「少子高齢化社会の抱える複雑で多様な課題を、行政や企業だけの力で解決するのは難しい。産学官民が協力すれば、イノベーションが起こせる」と語る。

 リビングラボは、実際に人々が生活する場(Living)が実験室(Lab)という考え方で、住民と企業、自治体、研究機関などが集い、社会課題の解決を図る“共創”活動だ。秋山教授によれば、2000年ごろから欧州で広がり始め、世界約500カ所に設立されており、国内でも約30カ所(昨年4月時点)で取り組みがあるという。

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 福岡県大牟田市は、NTTとの共同実験として18年から「地域密着型リビングラボ」を開始。2週間に1度のペースで、市内の介護予防拠点施設に住民の意見交換の場をつくり、地域の課題やニーズを探ってきた。池田武俊・健康福祉推進室長は「認知症になってもその人らしく暮らせる町をどう維持していくか、課題が見えてきた」と話す。

 福岡市と福岡地域戦略推進協議会(FDC)が17年度から始めた「福岡ヘルス・ラボ」でも、製薬会社のエーザイとともに、認知症や介護予防をテーマにした取り組みが進む。高齢者に起立を促すゲームやカラオケ機器を活用した音楽健康教室など、市民に企業の商品のモニターになってもらい、健康への効果を検証する事業も行っている。

 長崎県壱岐市に今春オープンする移住交流拠点施設「たちまち」。市民の有志でワーキンググループをつくり、リビングラボの手法で出し合ったアイデアが形になったものだ。住民たちが改修した空き家に、食堂と交流スペース、市の移住相談窓口が設置され、官民が連携して移住促進に取り組む。

 FDCでリビングラボを担当する片田江由佳さん(32)は「地域の人が課題を自分のこととして受け止めることで、新たな解決策が生み出されており、手応えを感じている。もっといろんなテーマに広げていきたい」と話している

=2019/02/01付 西日本新聞朝刊=