温暖化 揺れる保守層 米南部ノースカロライナ州ルポ 豪雨多発「真実かも」 根強い科学不信 背景に宗教も

西日本新聞

 米国でハリケーンに伴う水害や山火事など災害の大規模化が深刻さを増している。専門家は「地球温暖化が経済に大損害を与える」と警告し、積極的な対策を政府に求めるが、トランプ大統領は「私は信じない」と頑として受け付けず、トランプ氏支持者が多い南部でも温暖化に懐疑的な空気が色濃い。だがそんな保守の地盤でも近年、豪雨災害が相次ぐ。昨年9月に大型ハリケーンが直撃した南部ノースカロライナ(NC)州の被災地を取材すると、「温暖化の進行は真実かもしれない」と揺れる思いを抱える人たちがいた。 (ワシントン田中伸幸)

 NCの中部から南部を流れるケープフィアー川沿いの高台にあるエリザベスタウン。人口約3千人の農業の町は昨年9月のハリケーンで総雨量がNC最多の913ミリを記録。川が氾濫し、町全域が浸水した。

 1月中旬に訪れると、通行止めの橋や土砂が流出して傾いた墓地など水害の爪痕があちこちに残っていた。畑には季節外れの白い綿花が広がる。秋の収穫期にハリケーンが直撃し、豪雨で畑の土がぬかるんでトラクターが入れず、収穫されないまま放置されていた。

 「家の前で水が膝下までたまることなんて今までなかった。最悪の雨だった」。独り暮らしのビーズリーさん(72)宅は川や近くのクリークからあふれた水に周囲を覆われ、5日間停電。州内に住む息子のタイラーさん(25)が駆け付けて手助けし、避難せずに済んだが、近所では孤立してヘリで救出された人もいた。

 町は2016年にもハリケーンによる洪水が発生。相次ぐ災害に困惑するビーズリーさんは、原因として流布する「大昔は氷河期もあったし干ばつがひどい時代もあった。今は大雨が多い気候のサイクルだが、いずれ終わる」という説に説得力を感じている。

 一方、温室効果ガスの増加による温暖化が原因とする科学者らの主張には「何とも言えない」「分からない」と言葉を濁した。

 米国民の過半数は温暖化原因説を支持しているとされるが、保守的な地域では知識層やリベラル派が多用する「気候変動」との表現を口にするのすら嫌う人が少なくない。エリザベスタウンもそんな町の一つだ。

 だが、タイラーさんは「父の考えは変わり始めている」と打ち明ける。相次ぐ災害に「今までと違う何かが起きている」と漏らし、温暖化の話に耳を傾けるようになったという。

   ◆     ◆

 NCにあるイーロン大は昨年のハリケーン直後の10月に州全域で世論調査を実施。「気候変動が将来、NCに悪影響を及ぼすか」との問いに、全体の52%が「非常に可能性が高い」と回答した。注目は与党共和党支持者。その37%が「非常に可能性が高い」と答え、17年春に行った同様の調査の13%から急増したという。全体に比べれば割合は低いが「災害や異常気象と、気候変動の関係に注目する保守層は確実に増えている」と調査担当者は話す。

 「その調査は災害直後で皆が感情的な時の話だ。当てにならない」。細長く連なる島々で大西洋と隔てられたNC東部のパムリコ湾に面する町エンゲルハードで建設業と農業を営むドートリーさん(57)に世論調査の話を向けると、素っ気ない答えが返ってきた。

 NC東部の沿岸部はハリケーンや嵐が頻発し、昨年9月も大きな被害を受けた。特に近年、一帯の農業地帯で問題化しているのが、肥沃(ひよく)な低地に降る大雨が滞留し、海水までも流れ込む被害の拡大だ。

 海岸から3~4キロ内陸を車で走ると、大雨で農地にたまった水をポンプで排出する光景を見掛けた。塩害で耕作に適さなくなった畑や、立ち枯れした木も多い。「ここ10年は、海からもっと離れた農地でも排水ポンプの設置依頼が増えている」とドートリーさんは話す。

 一連の被害の一因として挙げられるのは、やはり温暖化だ。北極圏の氷が解けた影響などで海水面が上昇した結果、川からあふれた水がはけにくくなった上、暴風で海水が逆流しやすくなったと指摘される。海水面は50年ごろまでに、さらに10センチ前後上昇するとの研究もある。

 しかし、地元で地域の世話役を務めるギブスさん(67)は、堤防や排水設備の改善を求める声は強まるものの、「共和党支持者の多いこの地域で温暖化を議論しようという機運は高まっていない」と話す。

 理由の一つとして挙げたのが宗教的背景だ。「『気候は神が決める』と信じて疑わず、科学を信じようとしない保守層が少なくない」。ギブスさんが温暖化に理解を示していることを知り、それ以降、対話を一切拒絶する人もいるという。

 トランプ氏を支持するドートリーさんも、「温暖化は人類の活動が主因」との科学者や環境保護派の主張に「気候の変化は単なる巡り合わせかも知れない。人間だけが問題という考えには賛同しない」との立場。一方で「海水面が上がったのは事実。気候変動の影響かもしれない」とも漏らした。現実に激変する環境に直面し、思いは揺れる。

 ただ、温暖化を認めれば高コストの自然エネルギー導入などを押しつけられるだけ、との疑念もよぎる。「俺の生き方が否定され、変化を迫られるなら、温暖化の議論は害悪でしかない」。深いため息をついた。

 ●トランプ氏「信じない」 民主は大統領選で争点化へ

 米メディアによると、国民の約6割が温暖化対策を求める一方、保守層を中心に温暖化に否定的な意見も根強い。背景には、石油・石炭など温室効果ガスの大量排出につながる業界の支持を受けるトランプ大統領や与党共和党と、かねて「気候変動は危機的状況」と温暖化対策を看板政策に掲げる野党民主党との対立の存在も大きい。

 中西部が記録的寒波に見舞われた1月下旬、トランプ氏は「温暖化はどうなったんだ。早く戻ってきてくれ。われわれには温暖化が必要だ」と皮肉交じりのツイートを発信。温暖化について一時期のように「でっち上げ」と全否定することはなくなったが「科学者は全てを説明できていない」などと懐疑論を頻繁に唱える。

 トランプ政権は国際的な温暖化対策を進める「パリ協定」は米国の負担が過大だとして離脱を決め、エネルギー業界などの利益につながる規制緩和を連発。環境保護より経済成長を重視する政策は、共和党支持層などから支持を得ている。

 一方、規制緩和によってノースカロライナ(NC)州沖などでは海底油田開発に向けた掘削が検討され、海洋汚染による観光業への悪影響を懸念する声が保守層にも広がり、反発を招く事態も起きている。NCは共和党の地盤とはいえ、前回大統領選でトランプ氏が僅差で勝利した接戦州の一つ。来年の大統領選出馬を目指す民主党議員らは「気候変動問題を主要争点にする」と早くも宣言し、対決姿勢を強めている。

 米社会でこの問題を複雑にしているのは「温暖化は民主党の代名詞」との印象が深く浸透している点だ。保守層が温暖化問題を口に出しにくい雰囲気が著しく醸成され、国民的な議論を妨げる要因になっている。

 NC沿岸部で護岸改良など温暖化対策に取り組む民間団体責任者のミラー氏(61)は「支持政党を問わず危機感を持つ人は多いのに、問題が政治化しすぎている。悲しい状況だ」と厳しい表情で語った。

=2019/02/04付 西日本新聞朝刊=

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