地裁、早期決着を優先 自白調書や凶器調べず 松橋事件再審結審

西日本新聞

 松橋事件の再審初公判で熊本地裁は、殺人罪を認定した確定判決の根拠となった自白調書や凶器とされた小刀は証拠として調べずに結審した。弁護団が早期の無罪判決を望み、自白の信用性を否定した再審請求審での経緯も踏まえ、迅速な審理を優先させたからだ。ただ、識者からは「確定判決や捜査の誤りを検証する機会が失われた」と懸念する声も上がった。

 「宮田浩喜さんの体調も良くないようだ。早く判決を出したい」。弁護団によると、溝国禎久裁判長は昨年12月20日、検察側、弁護側を交えた初の3者協議でこう提案したという。その後の協議では、検察側が証拠申請しても自白調書などは調べない考えを示した。

 再審請求審では、宮田さんが「凶器に巻き付け、燃やした」と自白した布が検察が保管する証拠品から見つかり、凶器とされた小刀と傷口が一致しないことも判明。昨年10月の最高裁の再審開始決定は、殺人罪の唯一の直接証拠だった自白の信用性を否定した。

 「誰が見ても無罪。地裁も同様の考えだったのではないか」と弁護団は話す。

 法政大法科大学院の水野智幸教授(刑法、刑訴法)は「最も重視すべきは一日も早い無辜(むこ)の救済だ」と強調。再審公判で自白の信用性を改めて調べれば、証人尋問などで相当な時間が必要と見込まれる。「地裁はシンプルで画期的な判断をした」と評価する。

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 一方で、殺人罪の成立を認めた確定判決が、うその自白を見抜けなかった疑問は解消されなかった。

 「公開の法廷で証拠を検証しなければ、誤判の原因究明につながらない」。元裁判官の門野博弁護士は、地裁の判断に疑問を抱く。

 1990年に栃木県足利市で女児が殺害された「足利事件」で、無期懲役が確定し服役した菅家利和さん(72)はDNA型の再鑑定で再審無罪が言い渡された。

 再審公判で検察側は有罪立証をしなかった。だが、宇都宮地裁は当時のDNA型の鑑定結果を調べ、証拠能力を否定。検察官が起訴後に菅家さんを取り調べたことについても「弁護士への事前連絡や黙秘権の説明もなく違法」と断じ、自白は虚偽だったと認めた。

 再審の判決公判で、裁判長は「真実の声に耳を傾けられなかった」と謝罪した。

 憲法は裁判の公開を定めるが、再審請求審は通常、非公開で行われる。元裁判官の木谷明弁護士は「国民がチェックできる公開の法廷で審理してこそ、松橋事件の問題点が明らかになり、新たな誤判を防ぐ教訓とすることができたはずだ」と話した。

松橋事件、無罪確定へ 再審初公判、殺人立証せず結審 熊本地裁

弁護団「無罪です」30分で結審 松橋事件再審初公判

=2019/02/09付 西日本新聞朝刊=

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