「一人旅」を免れた記事

西日本新聞

 立派な特ダネ記事なのだが、よその新聞やテレビがどこも追いかけない。そのうち忘れ去られ、結果的に社会にインパクトを与えずに終わってしまう-。そんな状況を、特ダネの「一人旅」と呼ぶらしい。

 言い得て妙である。内容は正確で問題意識も優れた記事なのに、なぜか他社が取り上げない。読者の反応は限られ、関心が薄れていく。書いた記者や新聞社にとってはつらい道行きだ。

 昨年9月12日、西日本新聞の1面に掲載された記事も、危うくこの「一人旅」になるところであった。

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 「統計所得 過大に上昇」「政府の手法変更影響」の大きな見出しに、以下の記事が続く。

 「政府の所得関連統計の作成手法が今年に入って見直され、統計上の所得が高めに出ていることが西日本新聞の取材で分かった」

 「調査対象となる事業所群を新たな手法で入れ替えるなどした結果、従業員に支払われる現金給与総額の前年比増加率が大きすぎる状態が続いている」

 「高めになっているのは『毎月勤労統計調査』」

 そう、これは今、政府を揺るがしている統計不正問題の第一報なのだ。

 筆者は、東京報道部に所属する永松英一郎記者。経済担当で、あまり敏腕記者っぽくはない、どちらかと言えば地味な感じの中堅記者である。

 永松記者はさらに数本の続報を出稿。「上振れを招いた統計作成手法の変更には、麻生太郎財務相の『問題提起』があった」と背景に切り込む記事も出した。

 つまり昨秋の時点で、本紙は今国会で与野党攻防の焦点となっている「アベノミクス成果偽装疑惑」の本筋を指摘していたのだ。

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 しかしこの記事は、いくつかの全国紙がごく地味に「後追い」しただけで、大騒ぎにはならなかった。

 昨年12月28日、朝日新聞が夕刊で「厚生労働省が毎月勤労統計で全数調査を怠り、抽出で実施していた」と報じた。分かりやすいルール違反の発覚で、各社とも統計不正問題を大々的に報じるようになった。

 これが政治問題化していく過程で、昨秋の記事が改めて脚光を浴びた。国会では、野党議員が本紙の記事を示しながら政府を追及する事態に至っている。「一人旅」になりかけた記事は今や「先駆者」の位置付けだ。いや、めでたい。

 それにしても、9月から年末までの国会議員、特に野党議員の反応の鈍さは何だったのか。本紙の記事をすぐに読めた九州の議員もいるはずなのだが。

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 と、偉そうに言ってみたが、実は私も昨秋の特ダネの価値をよく理解していなかった。ざっと読んでスルーしていたのだ。超文系である私の脳が「統計」という単語を見た瞬間に活動を停止したのだと思われる。

 これを永松記者に白状したところ「そうですよねー。統計ですからねー」と言ってくれた。統計不正に対する世論の反応がいまひとつなのは、やはり統計というテーマに対する心理的ハードルが高いのも一因だろう。残念なことである。

 そこで来週、私は「統計不正がどうして大問題か」を、例え話を駆使して解説しようと考えている。当コラム初の「次回へ続く」である。ご期待を。

 (特別論説委員)

=2019/02/10付 西日本新聞朝刊=