なぜ組織として無責任か 原島良成氏

西日本新聞

熊本大熊本創生推進機構准教授原島良成氏 拡大

熊本大熊本創生推進機構准教授原島良成氏

 ◆自治体の内部統制

 ある自治体の部長さんが書いた私的メモにコメントする機会があった。業務内容を紹介した文章であり、「間違い」の無いよう無難な表現を追求したらしかったが、紹介しようとする制度の根幹と枝葉がともに詳細に描かれ、部外者の私にはメッセージが伝わりにくいと感じられた。「この部分は削ったらどうか」「こういう図表を入れてみたら」。ふと見ると、部長さんのギロリとにらむ目がそこに。

 民間企業ではおなじみの「内部統制」が、改めて自治体向けにアレンジされ、2017年の地方自治法改正で導入された。20年4月の施行を目指して、大規模自治体では準備が進められている。

 一般に、内部統制という言葉は幅広い意味内容で用いられ、「法令遵守(じゅんしゅ)」「業務効率化」「リスク管理」「上意下達」といった要素を含んでいる。とりわけ財務・会計の適正化が意識され、改正法でも監査制度の充実や決算チェック体制の強化が盛り込まれた。今後、各自治体で適正確保のための方針を定め体制を整えることになる。いわば不正経理に対する感度を上げる改革であり、広く自治体の過誤や非効率の解消を狙うものではない。しかし今、民で培われた内部統制に官が学ぶとすれば、表面的区別にこだわるべきではなかろう。なぜ自治体に内部統制が必要なのか。

 法学では行政組織内部のあり方よりも、外に向けて行使される公権力から自由と財産を守る理論に関心が向けられてきた。官僚制にメスを入れるのは政治であって法ではなかった。顕官(高位の役人)が処罰されることがあっても、それは組織を追われた個人が法的責任を負ったにすぎない。組織の不正が、個人の問題として処理されてきた。

 冒頭の失敗例は、忠言ならずとも顕官の耳に逆らう官僚制の日常であるが、論理なき「上司」という組織の一大問題こそが内部統制の主題であって良い。公設オンブズマン事務局のように、官僚制の系統から外れた専門家集団を自治体内部に抱え育て官僚団の動きをけん制させるというのは、一つの方向であろう。

 自治体の監査委員は会計の監査にとどまらない強力な内部統制権限を有しているが、実は「元上司」であったり外部の会計専門家であったりする。地方議員が監査委員になる意味はあるのか。地方自治を法の下に置くために、議論し工夫しなければならない。

    ◇      ◇

 原島 良成(はらしま・よしなり)熊本大熊本創生推進機構准教授 1975年生まれ、東京都出身。上智大大学院法学研究科博士後期課程満期退学。放送大助教授などを経て、2009年から熊本大准教授。専門は行政法(自治法・環境法)。

=2019/02/10付 西日本新聞朝刊=

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