「論語と算盤」の哲学 東京報道部 吉田 修平

西日本新聞

 東京・丸の内の東京商工会議所。設立140周年に合わせ、昨年10月に建て替えられたビルのロビーには1体の像が立つ。同商議所の前身、東京商法会議所の初代会頭を務めた渋沢栄一の像だ。

 明治初期に国立銀行条例を起草し、第一国立銀行の設立に携わった人物と、日本史の教科書で学んだ程度の私。ロビーで開催中の渋沢に関する企画展に、しばし見入った。

 渋沢が会頭に就いたのは1878年、38歳の時。歴代最長の27年1カ月間、会頭を務めた。91歳までの生涯で481社もの企業設立に関与し、その6割超の296社が平均120年を生き抜き、合併などを経て185社として現存しているというから驚きだ。

 社名一覧には金融やエネルギー、運輸、重化学工業などインフラ系の企業が目立つ。九州電力や西部ガス、JR九州なども名を連ねる。パリ万博視察など渡欧経験のあった渋沢は当時、日本にはないが海外で普及していたもの-人々の生活を豊かにするものを積極的に取り入れたようだ。

 東京商議所の三村明夫会頭は、渋沢の関わった各社について「私益と公益が両立しなければならないという渋沢の『論語とそろばん』の理念が社訓などで受け継がれているはずだ」と話す。その理念とは、渋沢の著書「論語と算盤(そろばん)」の現代語訳を手掛けた守屋淳氏によると、「利潤と道徳の調和」だという。

 資本主義や実業の世界は、ともすれば利益重視の欲望が勝ってしまう。つまり「そろばん」に偏りがちになる。行き着く先がどうなるかは、平成初期のバブル経済崩壊や、金融工学を駆使した証券化ビジネスが破綻したリーマン・ショックなどが象徴的だ。

 渋沢は100年以上前にこうした問題点に気付き、暴走を抑えるブレーキ役として孔子の論語を取り入れた。論語は、国家や社会の倫理などに関する教訓の書として知られる通り、守屋氏は「相反しがちな『競争』と『倫理』双方の考えを取り入れることで互いの欠点は抑えられる。渋沢はこのバランスにより、健全なビジネス、経済をつくろうとした」と説明してくれた。

 ちなみに、経営学者のドラッカーは「経営の『社会的責任』について論じた歴史的人物の中で、渋沢栄一の右に出る者を知らない」と述べている。渋沢の教えは現代の企業経営やビジネスにも通じる。いや、むしろ必要ではないか。そんな思いを巡らせる。

    ×   ×    

 ▼よしだ・しゅうへい 長崎市出身。九州大卒。2004年入社。朝倉支局、筑豊総局、経済部などを経て、17年8月から現職。民間企業と財界を担当。

=2019/02/13付 西日本新聞朝刊=

PR

アクセスランキング

PR

注目のテーマ