点字にも楽譜 1人の母親の声が後押し…アート作家が絵本に込める思いとは

西日本新聞

「星めぐりの歌」の絵を手にする加藤英理さん。星の並び方は、点字の楽譜と同じだ=6日、熊本市 拡大

「星めぐりの歌」の絵を手にする加藤英理さん。星の並び方は、点字の楽譜と同じだ=6日、熊本市

展示用作品の一つ「すいかの名産地」。黒い種が小さな突起になっている

 額縁に囲まれた絵に、青みがかった夜空に浮かぶ無数の星が描かれていた。その並びは、よく見ると規則的。「点字の楽譜と同じように並んでいるんです」。楽しそうに明かしてくれたのは、熊本市のアート作家、加藤英理(えいり)さん(42)。今、点字の楽譜をモチーフにしたこうした作品作りを進めている。色や突起の素材を工夫し「見ても触っても楽しめる」作品に込めた思いとは。

 点字は、目が見えない人が触って読む文字だが、点字の楽譜もあることはあまり知られていない。こうした点字の文化を「見える人にも知ってもらい、障害への関心を高めるきっかけにしてほしい」と加藤さんは言う。

 文字と同様、点字による音も、6個の点がひとまとまりで一つの音の高さと長さを表す。この絵の基になった楽譜は、宮沢賢治が作詞作曲した「星めぐりの歌」。星の突起は一個一個、黄色い糸で刺しゅうしている。背景は、この歌が登場する童話「銀河鉄道の夜」をイメージした。

 こうした自作品を、加藤さんは「ブレイル(点字の)フレンド」と命名。4年前から各地で作品展を開き、点字で模様などを描くワークショップを続けている。現在は絵本の制作を進め、クラウドファンディングで資金を募っている。

 作品作りのきっかけは、マンドリンの市民楽団に所属していた約5年前。年に1度、慰問に訪れていた熊本県立盲学校で、子どもたちに楽器の大きさを、何げなく「見ての通り」と説明している自分に気付いた。見えないと頭では分かっていたつもりだったのに…。「日常で何となく見えていても、実際には見えていないことがある」と思い知らされた。見えない人はどうやって楽譜を読むのかと考え、点字を勉強し始めた。

 街の点字ブロックや公共施設のエレベーターのボタンだけでなく、缶ビールの上部などにも点字はあるが、意識している人は多くない。点字の楽譜があるものの、視覚障害者でも専門家でも、実際に読める人は少ないと知った。

 パソコンやスマートフォンが普及し、文字の読み上げ機能を使う人も増加。「特に途中で失明された方は、点字自体を読めないこともある」(加藤さん)

 一方、一般の点字は真っ白い紙に凹凸があるだけ。試しに色鉛筆で塗ると「かわいい水玉模様」が浮かんだ。「見て楽しめるし、Tシャツやバッグのデザインにも使える」。日頃、視覚障害者になじみがない人が関心を持つ「入り口」になるのでは、と考えた。

 作品は、曲の楽譜を点字に翻訳することから始めた。米国民謡が原曲の「すいかの名産地」と名付けた絵は、音符を真っ赤なスイカの無数の黒い種に見立てた。「ねこふんじゃった」は、音符をグランドピアノに付いたたくさんのネコの足跡で表現。いずれも直接、指先で突起を感じてもらえるよう意識する。「突起に触れると小さいけれども確かな存在を感じる。その手触りによって、普段はあまり気にすることがない、障害がある人に思いをはせられる」と考えるからだ。

 ホームページや会員制交流サイト(SNS)でも公開し、徐々に反響も広がる。絵本作りは、滋賀県の女性からのメッセージが発端だ。「私は見えないが子どもは見える。点字の本は子どもにとっては真っ白い紙。せめて色やイラストでも付いていたら楽しめるのに、と思っていた…」と、背中を押してくれた。

 実際の点字は小さく規格が異なるため、加藤さんの作品を、視覚障害者が触って読み取ることはかなり難しい。今回の絵本には「きらきら星」など誰もが一度は聞いたことがある曲を盛り込み、五線紙の楽譜や説明文なども添えることにしている。加藤さんは「そばにいる見える人に演奏してもらうなど、楽しみを共有できるよう工夫を重ねたい」と話している。

 絵本は500冊を作成。支援金は1口千円から。目標額は80万円で、3月末まで募る。雑貨店などで販売するほか、障害者らを支援する団体などにも販売を委託し、一部は活動資金に充ててもらう考え。ホームページ=https://kumamoto.dreamraising.jp/projects/braille‐friend/

=2019/02/14付 西日本新聞朝刊=

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