統計不正はこれほどヤバい

西日本新聞

 先週の当コラムで、国会を揺るがしている統計不正問題は、実は昨年9月に本紙が特ダネとして報じていたことを指摘した。

 ただ「統計」というなじみの薄いジャンルであるためか、初報から政治問題化まで時間差が生じ、現在でも世論の関心はいまひとつに思える。そこで今週は「統計不正はどれほど大問題か」を、文系脳の私が例えを駆使し、分かりやすく読者に解説したいと思う。

 私はひそかに「九州の池上さん」のポジションを狙っているのである。

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 統計不正問題は多岐にわたるが、本丸の「毎月勤労統計」について論じる。

 簡単に説明すれば、厚生労働省はこの統計の作成手法を不正に簡略化。それを途中から「完全版」に近づけるため数値の復元加工をしたところ、結果として実質賃金の伸び率がかさ上げされた。つまり実態より過大に「賃金が上がった」と公表していたのだ。

 経済ウオッチャーたちは政府が「不適切な手法でデータを収集、公表」したことに危機感を抱く。

 BNPパリバ証券チーフエコノミストの河野龍太郎さんは「そもそも一国の経済運営とは、視界の悪い悪路を、バックミラーを頼りに運転するようなもの」と例える。経済指標の数値はリアルタイムでなく近過去のもの。バックミラーに映る近過去を見ながら、正しい道を進んでいるか判断する、という意味だ。

 以前から日本の経済統計には問題点が指摘されていたが「今回の不正発覚で、日本政府のバックミラーは曇りがちだっただけでなくゆがんでいたことが分かった」と河野さん。「これではよかれと思ってやっている政策が、経済に悪影響を及ぼす可能性さえある」

 視界不良の中、ゆがんだバックミラーを見ながら車を走らせている運転手を想像していただきたい。今にも道を間違えそうだ。

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 私はこの問題で「賃金伸び率のかさ上げ」の部分に注目している。アベノミクスがうまくいっていると印象づけるため、伸び率上振れの裏事情を隠していた疑いが生じているからだ。いわゆる「アベノミクス成果偽装疑惑」である。

 私なりに、医者と患者のケースで例えてみる。医者から「体温は下がったし血糖値も正常に戻った。治りつつあります」と説明を受けた。しかしその体温や血糖値などの数値が狂っていれば、本当に「治っている」のか全然分からない。

 しかも医者が「自分の治療法は正しい」と思わせるために、実態以上の良い数値を告げていた疑いもあるのだ。どんな医者だ?

 さて、問題の火付け役である本紙の永松英一郎記者に「統計不正を例えるなら」とお題を出した。2日考えて答えてくれたのが「現代の大本営発表」である。

 確かに、故意に過大な数字を出して成果を誇張していたならば、戦時中の大本営発表と同じ構図だ。それに「メディアも国民も踊らされていたのではないか」と永松記者は怒る。数字の上振れに指示や忖度(そんたく)はなかったかが今後の焦点だ。

 ゆがんだバックミラー、狂った体温計、そして大本営発表。こう並べれば統計不正の「ヤバさ加減」を分かっていただけるだろうか。簡単に幕引きなどしてはならない問題なのである。

 (特別論説委員)

=2019/02/17付 西日本新聞朝刊=