【動画あり】「キッス完コピ」バンド福岡出張 熱狂ステージで化学反応

西日本新聞 ふくおか都市圏版

キッスのヒットナンバーを演奏する「ティッシュ」の4人。本家そっくりの風貌と同様、演奏力もなかなかの腕前だ 拡大

キッスのヒットナンバーを演奏する「ティッシュ」の4人。本家そっくりの風貌と同様、演奏力もなかなかの腕前だ

米国のロックバンド「キッス」をカバーする鹿児島の「ティッシュ」。奇抜な化粧と衣装で本家初期メンバーになりきる 運搬作業用手動リフトにジーン・シモンズ役の小倉繁記さん(左)を載せて押し上げ、宙吊り状態を演出する場面も 白のランニング姿で上半分のスタンドマイクを持ち、フレディ・マーキュリーの物まねをする浅賀和弘さん(中央)

 「スタンドプレー」という言葉がある。辞書をめくると、競技者などが見物人の喝采を狙って派手に振る舞う行為、の意味。スポーツに限らず、何となく自分勝手な目立ちたがり屋といったネガティブな印象があるが、好感が持てるケースもある。ポジティブな印象のスタンドプレー。最近、そんな場面に遭遇した。

 福岡市・中洲で2月上旬に2日間あった「九州クラシック・ロック・フェスティバル」。レッド・ツェッペリンやディープ・パープル、ジミ・ヘンドリックス…。1970年前後に現れ“ロック黄金期”を築いたバンドやアーティストのカバーバンドが集まるライブイベントだ。3回目の今回、初参加で異様に盛り上げたバンドが登場、客席の片隅で見守った。

 米国のロックバンド「KISS(キッス)」をカバーする鹿児島の4人組「TISSUE(ティッシュ)」。キッスといえば、初期は「コープス・ペイント」と呼ばれる白塗り化粧と奇抜な衣装がトレードマーク。各メンバーは悪魔や宇宙人、猫の怪人といったキャラクターが設定された。そして火を噴き、血を吐き、楽器を破壊し、宙を舞うという過激なパフォーマンス。その半面、メロディアスなハードロックは女性にも支持され、結成46年の今も世界的な人気を誇る。

 そんなスーパーバンドの「完全コピー」がティッシュの信条だ。演奏法や使用楽器だけでなく、白塗り化粧と手作り衣装で本家初期メンバー(ジーン・シモンズ、ポール・スタンレー、エース・フレーリー、ピーター・クリス)に変身。そして本家のパフォーマンスを可能な限り再現する。あくまで地元の鹿児島で。

 彼らが登場したのは2日目中盤のステージ。ヒット曲「ラヴィン・ユー・ベイビー」「ラヴ・ガン」など次々に披露される演奏に触れると、リズム感やグルーブ感などのテクニック、音酔いしない程度の爆音サウンドは本家に迫るものがある。しかし、演奏中の「演出」が次々に披露されるうち、会場の空気は徐々に変化していく―。

 演奏中、ステージに運搬用の手動式リフトが持ち込まれ、専属スタッフがペダルを懸命に踏むと、ジーン役を載せたリフト台がじわじわ上昇。ジーン役は歌舞伎役者の見得のようなポーズを決める。エース役が演奏中おもむろに鳴らすのは“蜘蛛(くも)の糸”クラッカー。本家お決まりのギター炎上の演出だが、突然噴き出す無数の金銀テープに観客は仰天。ポール役は漫談MCを披露し、直前に仕込んだおもちゃのギターをたたき割る…。手作り感満載ながら、サービス精神は「そこまでやるか」と思わせるほど規格外。ノンストップで観客を興奮の渦に引き込んだ。

 まるでワンマンショーを思わせるステージはまさにスタンドプレー。後続のバンドから「やりにくいなぁ」といった声も漏れていたが、真相は違った。ホスト役を務めるツェッペリンのカバーバンド「グラーフ・ツェッペリン2」のリーダー田中健さんが証言する。

 「実は彼ら、自分たちの出番以外は会場一番後ろで立ち見してたんです。あの姿で。それに気付いた他のバンドは演奏がすごみを増した。中には熱くなり即興演奏を10分以上も続けた組もいて。もともとバンドマンは自己顕示欲が旺盛なスタンドプレーヤーぞろい。そこに個性が強烈でも謙虚なプレーヤーが加われば切磋琢磨でき、イベントは一層盛り上がる。参加を呼び掛けて大正解でした」

 ジーン役でリーダーの小倉繁記さん(50)が語る。「うちのバンドスタイルは地方演劇一座という感じ。ただ福岡は目の肥えたお客や腕利きバンドが多く、演奏中もずっと緊張してて。温かく受け入れてもらいホッとしました。95年の結成以来、キッス一筋。鹿児島ではそろそろ飽きられそうなので、もっと腕を磨いて福岡出張を増やします」

 実はこの日、田中さんの仕込みがもう一組。最後のバンドの演奏合間、1人の男性がステージに駆け上がった。冬なのにランニングシャツ姿、黒いビニールテープの口ひげ、片手に上半分だけのスタンドマイク。「クイーンを探して心強い助っ人を発見。フレディ・マーキュリーの物まねで話題のアサガさんです」。男性は福岡市の会社員、浅賀和弘さん。紹介が済むと浅賀さんはマイクを手に「デーオ!」とシャウトしてはコミカルに動き回り、大ヒット映画「ボヘミアン・ラプソディ」の一場面を再現。白塗りの4人も後ろで爆笑していた。

 スタンドプレーヤーがスカウトする新顔プレーヤー。パフォーマンスで刺激し合えば化学反応が起き、観客はより満足する。前提は、エンターテインメントあふれるサービス精神とチームワークを支える謙虚さ。好感のあるスタンドプレーにはそんな法則がある気がする。(木村貴之)

=2019/02/18 西日本新聞=