1週間後、米朝再会談の行方は

 ベトナムの首都ハノイで27、28日に開催予定の米朝首脳再会談まで1週間。トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は昨年6月、朝鮮半島の非核化をテーマに歴史的な初会談に臨んだが、それ以降は具体的な進展がないままだ。正恩氏が求める段階的な非核化と引き換えに経済制裁を一部緩和する「相応の措置」を、トランプ氏は容認するのか。合意内容は、北東アジアの安全保障や日本人拉致問題などにも波及する。日米韓の識者に再会談の行方や焦点を聞いた。

■核査察受け入れが鍵に 韓国・峨山政策研究院安保統一センター長 申範〓(シン・ボムチョル)氏

 トランプ大統領と金正恩委員長はいずれも、2回目の会談で具体的な成果を国際社会に示す必要があるとの認識では一致している。

 現時点で考えられる成果は、米朝の関係改善に向けて北朝鮮の首都平壌に連絡事務所を設置することと、敵対関係を終息させる朝鮮戦争(1950~53年)の終戦宣言か。ポイントは、正恩氏が非核化に向けて昨年9月の南北首脳会談で表明した北西部寧辺(ニョンビョン)の核関連施設の凍結と査察受け入れを約束するかどうかだ。

 寧辺はプルトニウムや高濃縮ウランを生産する主要施設。正恩氏が具体的な時期を示して凍結と査察受け入れを約束すれば、トランプ氏は国連制裁による石油精製品輸入総量上限の緩和や南北の鉄道連結を容認し、人道支援も拡大するだろう。

 一方、北朝鮮は経済建設に向けて南北交流事業の開城工業団地と金剛山観光の早期再開を要求している。米国がまだ慎重なのは、北朝鮮が寧辺以外で核・ミサイル開発を継続している疑いがあるからだ。そこで米朝がどう折り合いをつけるのかが焦点になる。

 昨年から今年にかけて4回も訪中して中国の支援を取り付けた正恩氏に、国連制裁による危機感は薄い。ただ、昨年4月、新たな国家目標に掲げた経済建設に向け、そろそろ目に見える実績が必要だ。北朝鮮は同10月、「終戦宣言は非核化措置と交換する取引対象ではない」と強調。実利が乏しい終戦宣言より制裁緩和の道を開くため、正恩氏が踏み込んだ戦略的決断を示せば、今回の首脳会談はひとまず評価される。そうなれば、南北融和も加速し、正恩氏のソウル訪問も現実味を増すだろう。 (聞き手はソウル曽山茂志)

 シン・ボムチョル 韓国国防研究院北朝鮮軍事研究室長、韓国外務省政策企画官などを歴任、2018年から現職。


■「平和」宣言尽きぬ懸念 米・ヘリテージ財団上級研究員 ブルース・クリンナー氏

 米朝首脳再会談の展望について、米国の北朝鮮問題専門家の間ではやや悲観論が多い。楽観論を裏付ける情報が乏しいからだ。

 トランプ大統領は、昨年の初会談で三つの失敗をした。過去と同様に合意内容があいまいなこと、米韓などの軍事演習を中止したこと、人権問題などを抱える金正恩氏を美化してしまったことだ。その結果、非核化は進まず、必要な制裁などの圧力をかけづらくした。再会談でこんな失敗を繰り返してはならない。

 「非核化が先決」と訴えてきた米国は、北朝鮮が求める段階的な行動を認める政策に切り替えた。北朝鮮が核施設の査察や核に関する情報の申告などに応じた場合、「相応の措置」として米国がどのような行動を取るべきかが問題となる。

 一番あり得るのは、(法的効力を持たない)平和に関する宣言だ。米国の高官は演説で「戦争は終わりだ」などの発言を繰り返し、米国が終戦宣言などの容認に傾いているように映る。しかし宣言の後、北朝鮮が敵対政策を取らない保証があるのか、単なる宣言にどれだけの効力が見込めるのか、全く分からない。逆に宣言は、北朝鮮に対する制裁の存在意義を損ないかねないなど、懸念が尽きない。

 大陸間弾道ミサイル(ICBM)廃棄の可能性も指摘される。トランプ氏が米国民を守ることを優先して米国に到達可能なICBM廃棄だけで正恩氏と合意し、日本や韓国を狙える中短距離ミサイルは維持されることになれば、米国と同盟国との分断につながるかもしれず、問題だ。

 ただ、対話などを止めるべきだとは思わない。非核化の実現は時間がかかることを忘れてはならない。 (聞き手はワシントン田中伸幸)

 ブルース・クリンナー 米中央情報局(CIA)や国防情報局(DIA)で約20年間、朝鮮半島問題を担当。


■日本 協力へかじ切るか 慶応大名誉教授 小此木政夫氏

 米国と北朝鮮は昨年6月の初会談の時から2回目の開催を意識していたと思う。非核化は段階的な方法でやらざるを得ず、3回目の開催も予想される。

 非核化では、核兵器の原材料が製造できる寧辺の核施設の永久廃棄を軸に、どれだけのプラスアルファがあるのかが焦点。坑道を爆破した豊渓里(プンゲリ)の核実験場の現地調査や東倉里(トンチャンリ)のミサイル施設の廃棄も協議対象になるはずだ。

 北朝鮮が大胆な非核化措置に踏み切れば、米国による独自制裁の緩和や中国・ロシア主導での国連安全保障理事会の制裁見直しも考えられる。北朝鮮と韓国との相互依存関係の構築も重要で、開城工業団地や金剛山観光の再開など経済交流を部分的に容認する可能性もある。

 北東アジアでの米韓対中朝という対立の構図は、米朝交渉と南北対話によって米韓朝プラス中国という協力関係に変わりつつある。日本がここにどう関わっていくのかが一番の問題だ。日本はブレーキ役として制裁維持を強調しているが、協力関係に加わらなければ、日本人拉致問題など日朝間の課題は解決できない。

 安倍晋三首相は1月の施政方針演説で北東アジア政策について「これまでの発想にとらわれない、新しい時代の近隣外交を力強く展開する」と述べた。今回の米朝会談次第では、日本も対立から協力へかじを切るかもしれない。日朝交渉を再開できればプラス1になれるが、北朝鮮は日本に本当に国交正常化する意思があるのか疑っている。

 日韓関係は元徴用工訴訟判決の問題などで1965年の国交正常化以降、最悪の状況だ。ただ北朝鮮問題とは別の問題であり、切り離して連携できるはずだ。 (聞き手は前田絵)

 おこのぎ・まさお 慶応大教授、九州大特任教授、韓国の東西大特任教授などを歴任。専門は現代韓国朝鮮論


=2019/02/20付 西日本新聞朝刊=

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