【地域の針路】「第二村民」里山支える 定住無理でもできる範囲で

西日本新聞

山あいの日暮れは早い。「ほな、また来ますね」。河井さんが告げると「ありがとね」と西さんが応じた=大分県日田市中津江村 拡大

山あいの日暮れは早い。「ほな、また来ますね」。河井さんが告げると「ありがとね」と西さんが応じた=大分県日田市中津江村

 観光客よりは深く、移住者よりは適度な距離感で地域に関わる人々が今、増えている。「関係人口」あるいは「つながり人口」と呼ばれる人々の試みとは-。

■「地域おこし協力隊」として

 「元気しとりましたか」。玄関の向こうから聞こえる優しげな声に西ヤス子(84)が「はーい」と背中を丸めたまま引き戸を開けた。

 標高約700メートルの山あいにある大分県日田市中津江村の宮原集落。30年前は住民約20人が祭りや畑仕事に手を取り合ったが今や住民は西1人だけ。まきを集め、風呂を沸かす。集落で守ってきた小さな社への供え物も西が1人で担う。それでも「寂しくなか」と西に言わせる理由がある。月に数回訪れる民生委員や息子たち以外に楽しみにしている人物がいるからだ。河井昌猛(45)。大阪出身の河井は集落に縁もゆかりもなかったが、田舎暮らしに憧れ地域おこし協力隊として2012年、村に居を構えた。

 ただ定住した意識はない。月に1週間前後、運送会社を営む大阪へ戻る。それでも地域に関われば関わるほど愛着は増す。高齢者の見守りや掃除、草刈りなど細かな手伝いで暮らしを支えたいと13年、住民グループ「NPOつえ絆くらぶ」を発足させた。利用料は30分400円。年間数十件の依頼が届く。西からも依頼を受け、屋根に積もった枯れ葉落としなどを手伝う。「この地が好きだからこんな枠にはまらない関わり方で中山間地の暮らしを維持できれば」と河井は言う。

■温泉街活性化に協力「第二村民」

 湯煙が漂う黒川温泉(熊本県南小国町)。香川県出身の看護師の橋本涼(24)=熊本県阿蘇市=は温泉郷の「第二村民」になった。

 第二村民は、温泉街活性化に協力する人を地域外から募る取り組み。過疎で地域の支え手が減る中、「活性化への知恵と人材を幅広く」と黒川温泉観光旅館協同組合が昨年始めた。登録すると村民証が発行され、イベントなどに参加するごとに宿泊や買い物で割引されるポイントが付く。オンライン会議など現地を訪れなくても参加できる。

 橋本も河井と同じく九州に縁はない。昨夏から熊本地震で被災した阿蘇地区の病院に勤め、被災者に寄り添ってきた。「仕事以外でも熊本を応援したい」と登録。温泉郷を照らす竹灯籠づくりなどに参加する。

 「いきなり移住や定住を期待するのは難しい。それぞれの関わり方でこの地を盛り上げてくれたら」。同組合の北山元(42)は持続可能な黒川の将来を探る。

■「移住未満、観光以上」の絶妙な距離感

 河井や橋本のケースは国が進める「関係人口」の概念に近い。観光誘致で得られる一過性のにぎわいではなく、まず地域を好きになり足を運んでもらううちに、地域を支える当事者の意識が芽生えることを期待する。地元住民にとっても外の刺激を受けて「心の過疎」に陥るのを防ぐ効果もある。関係人口を増やす国のモデル事業は、全国約50市町村が実施している。

 「移住未満、観光以上」の絶妙な距離感。橋本は春、大学で学ぶため熊本を離れるが第二の古里を忘れる気はない。「地域に住まずとも、できる範囲で黒川を支援する」。肩肘張らず地域の枠にとらわれず。新しい担い手像がそこにある。 =敬称略

 =おわり

=2019/02/24付 西日本新聞朝刊=