【とまり木どこに】学校編(1) 支援学校の医ケア児、親の負担なお

西日本新聞

 雨上がりの薄日が、窓から差し込む。2月半ば、福岡市立のある特別支援学校。1階の教室で横たわり、「昼食」の注入を受けていたのは小学部5年のA君(11)。女性の看護師が慣れた手つきで、半固形の栄養剤を、胃ろうからゆっくり押し込んでいく。A君の表情が満足そうに和らいだ。

 早産の双子で生まれたA君は、その後の手術の後遺症で、胃ろうによる経管栄養のほか、口や鼻からたんの吸引が必要となった。こうした医療的ケア(医ケア)が必要な子どもは今、特別支援学校では、主に教育委員会が配置する「学校看護師」が対応している。日常的に暮らしていくのに必要とはいえ医療行為であり、原則、医療職以外には認められてないからだ。

 ▼由来は学校現場

 医療が進歩し、出生時にかつては助からなかった命が救われ、自宅で家族に24時間の介護を受けながら暮らす子どもが増加。1990年ごろ、各地の特別支援学校で、その対応が論議を呼び始めたという。

 一時は教員が親の代わりに行うケースも少なくなかった。教員による医療行為を問題視する声が上がったことから、治療と区別するために「医療的ケア」という言葉が生まれた、とされる。

 福岡市教育委員会は2002年度から看護師の配置を始め、当初は2校に各1人。その数が十分でない時期もあり、親が終日、校内待機を強いられるケースも多かった。その後は「指導医など専門家の意見も交え、校内のマンパワーを考慮しつつ、医ケア児一人一人個別に判断し、安全確保態勢をつくってきた」と市発達教育センター。

 本年度は5校に計57人が通い、看護師は計12人。同校の医ケア児は19人、看護師は4人。A君の母Bさん(45)は毎朝、自宅近くのバス停からスクールバスで登校する息子を見送り、パートの仕事など自分の時間を過ごす。「学校に安心して任せられ、助かる」と納得顔だ。しかし、医ケア児は全国的に増え続けている。そもそも、今の学校環境も「理想」とはいえない。

 ▼校外学習居残りも

 A君が小学部4年に進んだ17年春。当時3人だった看護師の1人が交代し新顔となった。医ケア児も新たに3人が入学した。「看護師だけでは回らない」と学校側から依頼があり、Bさんら注入が必要な医ケア児の親が昼食時、交代で丸1年、付き添った。

 市教委のルールにより、看護師は校内でしか対応しない。宿泊を伴う学習はもちろん、校外学習でも原則、医ケア児は親が付き添わなければ参加できない。Bさんはほぼ毎回、都合をつけて付き添うが、本年度の社会科見学は、きょうだい児の運動会の振替日と重なった。息子は元気に登校したものの、担任の1人とともに校内に“居残り”となった。

 スクールバスにも看護師配置はない。事実上、車内で医ケアを行わなくても体調は問題ないと学校側が認めた子どもだけが乗車できる。A君の乗車時間は約20分。入学してほどなく、乗車が認められた。ただ子どもの体調や学校側の判断によっては一転、送迎を迫られる可能性もある。「学校から電話があるたび、乗車できなくなるのでは、と不安です」(Bさん)

 ▼消極的な線引き?

 もう一点、Bさんがもやもやしていることがある。

 12年の法改正に伴い、教員も、一定の研修を受ければ医ケアの一部が法的に認められることになった。市教委は16年度にようやく、研修をスタート。Bさん親子は同校で初めて、校内研修への協力に手を挙げた。医ケアをする教員が増えれば「いずれ、校外学習での付き添いも不要になるのでは」と期待したからだ。

 それから2年半。これまで4人の教員がA君のケアを行う研修を修了したものの、うち1人がようやく医ケアを手掛け始めたのは昨年12月から。週2回、注入だけを行う計画。なぜ遅れているのか、学校側は「手続きなどに時間がかかった」と説明するが、Bさんの期待感はしぼみつつある。専門外の手技、万が一の事故、責任の所在…。学校側の懸念は想像できる。

 「個人単位の判断と言いながら、結果的に医ケアの消極的な線引きにつながらないよう、願っています」

   ◇   ◇

 親の負担感なしに、医ケア児が安心して通える学校環境がなかなか実現しない。その背景や解決策は-。主に福岡市の現場を歩き、考えた。

 ▼医療的ケア児 文部科学省の2017年度調査によると、全国の公立特別支援学校に在籍し、日常的に医療的なケアが必要な幼児、児童、生徒は8218人(全体の6・0%)。各校に配置された看護師は1807人、ケアに携わる教員は4374人。いずれも増加傾向にある。

=2019/02/28付 西日本新聞朝刊=

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