【提言委員座談会】漂流30年 変われぬ日本

西日本新聞

 本紙の大型コラム「提論」を執筆する提言委員は、「平成時代」の総括と新時代への視座をテーマに東京都内で座談会を行った。平成は世紀をまたぐ30年余の歩みとなるが、初頭には、冷戦構造が終焉(しゅうえん)し、世界史的な転換点となった。国内でも、人口減少と少子化、高齢化が同時進行。バブルが崩壊し、グローバル化と連動して経済大国が減速。自民党が38年ぶりに政権から転落し、連立時代に突入。多様な分野で構造変化に直面し、不確実性を高めた漂流を刻んだ。こうした経験や教訓を糧に、激動必至で視界不良が続く新時代とどう向き合ったらいいのか。次世代にどんな九州をつないだらいいのか。展望への座標軸を探った。

 (敬称略、司会は西日本新聞社編集局長・傍示文昭。座談会は2月19日に開催)

【平成時代とは】相対化の潮流を読めず 経済は安定 周りが成長

 -平成時代とは何だったのか。それぞれの立場でどんな感慨を持つか。

 宮本 ソ連が崩壊し、中国では天安門事件が起きた。米国は再び自分が唯一の超大国になったと錯覚し、多くの間違いを犯した。私はそのど真ん中にいたが、今しみじみ感じるのは、そうした大きな世界の流れに対する視野がいかに狭かったかということ。慚愧(ざんき)の念に堪えない。

 国内的には55年体制が崩壊し、政府の中で仕事をしていた私たちは百八十度の転換を経験した。だが経験した割に、次の新しいものを作り出せたのか。この30年間、ほとんど前に進めていないのではないか。これまた強い反省の念が生じる。

  付け加えると、平成は相対化の時代だった。世界的に相対化の時代は平成になる10年前、イラン革命が起きた1979年から始まっていたが、日本はそれを読み取れなかった。

 89年にベルリンの壁が崩壊しても、国内的にはバブリーなものが残っていて、次の時代への準備が遅れた。日本の国内総生産(GDP)は30年前に世界の15%あったが、今や6%に比重が下がっている。こうした相対化が至る所で起きている。

 藻谷 おっしゃる通り、まさに相対化が進んで、日本の国際的な地位は落ちた。だけど経済的には「リーマン・ショックはどこにあったんですか?」というくらい超安定していた。個人消費もGDPも、基本的にずっと横ばいで、輸出は倍増し、経常収支の黒字は、ほぼ史上最高水準を達成している。マラソンで言うと、周りが追いついてきただけ。それなのに「衰退した」「日本はだめだ」と。これは妄想だ。

 一方で、深刻になったのは少子化だ。この40年間で、毎年生まれる子どもは半分に減った。出生率が非常に低いのは、産みたいけど産めない人が多いということ。社会の中で「個」が重視されていないからだ。

 松田 男女共同参画法が制定されてもう20年。いわゆる先進国では、男性も女性も同じように働いて同じように子育てに関わる仕組みを入れて社会を変えたが、日本では進まなかった。昭和のおじさんが成功モデルから抜け出せないとよく言うが、男性もつらいはず。自分が子育てに関わらなかったことを多くの方が悔やんでいるのに、表に出せない。

 関根 そういう意味で平成は、人々の多様性を認めようという力と、それに反発する力がぶつかりあった時代だった。男女格差を示す日本のジェンダー・ギャップ指数は149カ国で110位。女性以外でも社会の仕組みは古く、性的少数者(LGBT)批判や障害者雇用率の水増し問題のように、意識が変わらない人や組織がある。

 徳増 昭和最後の日、89年1月7日は私にとって特別な日だ。茨城・茗渓学園の監督として全国高校ラグビー大会の決勝に進出したが、昭和天皇崩御で中止になり、ずっとそれを引きずってきた。そして平成最後の年になる今年、ラグビーワールドカップが日本で開催されるという巡り合わせだ。

 この間、2002年に日韓共催でサッカーのワールドカップがあり、スポーツ庁が15年にできた。昨年は日本体育協会がやっと日本スポーツ協会に名称を変えた。これからスポーツは明るくやっていかなきゃならない。それなのにスポーツの暗部、パワハラの問題が出てしまった。

【新時代の課題と展望】「個」確立し生き方磨け 幸せ もっと求めていい

 -平成時代を踏まえ、次の時代に引き継がれた課題と展望を。

 徳増 ふっと入っていけるような敷居の低さを、スポーツにつくれるか。これは武道から来ているが、人格形成を強調しすぎて、あれやっちゃいかんと制約を良しとする文化がスポーツにはある。そうじゃなくて、楽しいことがスポーツなんだと。

 昨年、外国人の子どもたちと一緒にやるラグビースクールをつくった。そこにトランペットを持っている子がいた。吹奏楽部に入っていると。運動部か文化部かではなく、何でもやる。この道を突き進むという意識を変えるのがスポーツ界の課題だと思う。

  世界はグローバル化の暴走で格差が広がっているが、それを規制するものが現実的にはない。だからリーマン・ショックが起きたし、また起きる。起きる度に貧者はますます貧者になる。そこにトランプ米大統領が出てきた。フランスではイエローベスト運動が起き、フランス革命でジャコバンに流れたような貧しい人々、過激な人々が出てきた。これをどう規制するか。リベラルは回答を出していない。

 藻谷 日本では既に約2割の市町村で75歳以上が減り始めていて、高齢化問題は団塊世代が亡くなっていけば7~8割の地域で解決する。そして団塊ジュニアをたくさん集めた福岡市や東京の一部のようなところは高齢者が激増し、高齢者問題が続く。今の暮らしやすさは一瞬の利益にすぎない。

 もう一つの問題は借金体質。防衛力増強も被災地復興も、新しくやっていることは全部、孫に請求書が回っている。このことにほぼ何の反省もないまま平成が暮れようとしている。行き着くところが日銀に国債を買わせる金融緩和。残された課題というか、実は話が大きすぎて、怖くて触れない状態だと思う。

 宮本 われわれが向き合わなければならない本質的な問題は空気社会。一つの空気が出来上がると違う声を押さえつけようとする。藻谷さんの言う「個」の確立ともかかわる。この空気社会がある限り、日本は同じ間違いを犯し続ける。このことを明確に意識しないと、あまりいい時代は来ないんじゃないか。

 それと長寿社会はいいが、いかに価値ある生き方をするか。幸せな社会とは、人生とは何か。そういうことを考える哲学や宗教が日本の社会では軽視されてきた。平成が終わった後に、そういうことを取り戻しましょうよ。

 松田 私も幸せってことをもっと一人一人が求めていいと思う。社会的にも精神的にも身体的にも、いい状態をつくっていく。それを突き詰めれば財源の使い方も変わると思うし、一人一人が自分が社会にどう関わるかを考えるきっかけになる。

 政治も一番の問題はダイバーシティー(多様性)がないところ。昨年できた政治分野の男女共同参画推進法は全く機能していない。法律は通したが、ここで女性たちが本気で変えていかないと。今すごく危機感を持っている。

 関根 いろいろな町で「哲学カフェ」が増えている。若い人たちが哲学を語ろうと大阪大がやっていたり、お寺でも始まっていたり。人は死ぬ時に初めて人生って何だろうと考える。自分の終末医療をどこまでやるかとか、死に対する哲学はこれから日本人を幸せにするのかなと。高齢学、死生学。多死社会を迎え、こうした学問が大学で議論される時代になると思う。

■多様性と共生 九州から

【新時代の九州の役割】アジアと交流し発見を 人口循環 福岡モデルに

 -九州はアジアに近い。ラグビーワールドカップは福岡、大分、熊本で計10試合行われ、欧米から富裕層の訪問も期待される。新時代の九州の役割は。

 徳増 最もお金を落とすと期待されるオーストラリアの方々を含め、ラグビーワールドカップではアジア以外の多くのお客さんが長期滞在する。同時にアジアの中の日本でもある。ワールドカップが大きな役割を果たしてほしいし、翌2020年の東京五輪に向けてもいろんな人たちが九州に足を運んでくれるだろう。

 彼らが「九州にこんな面白いところがあったよ」とSNSで発信し、九州のプレゼンスが高まる。私たちが気付いていない発見も結構あるだろう。楽しみにしている。

  アジアのゲートウエイに位置する九州は、アジア的な多様性と接触している。その多様性を活力へと転換しながら、自らもその多様性を受容するキャパシティーを広げていける、地勢文化的な位置にある。九州には、それ以外の地域に先駆けて、異種混交的な多様性を、共存共栄へとつなげていく役割が期待される。

 松田 いまJR博多駅前を歩くと、感覚的には半分くらいが外国人。韓国や中国の方がいらして、人の往来は本当に増えている。そこを都市間でどう生かしていくか。どこと組むと魅力的な人の交流が生まれるか、もっと真剣に取り組む。そうすると何かとんがるものができてくるのではないかと思う。

 福岡市は、日本人だけではなく、グローバルなスタートアップも受け入れている。だから、福岡市内でスタートアップのイベントをすると、大学生や高校生が参加して、熱気がある。ただ、残念なのはやっぱり男性がほとんど。むしろ、女性たちの方が自由なスタイルで仕事ができる。そこはサポートが必要かもしれない。

 関根 女性の農業系ベンチャーは結構、全国に出てきているので、そういうこともできるといい。伊都(福岡県糸島市)もそうだが、若い人たちが小さなカフェをたくさん興していて、薫製を作っているグループなどもある。福岡、九州は割と若者が地元に戻って、小さな店で頑張っているケースが増えているような気がする。

 藻谷 九州は出生率が高いけれど、福岡市への集中を続けていると札幌と同じ道をたどる。北海道の出生率は都道府県で下から2番目か。札幌市の出生率は相変わらず1くらい。出生率1のところに人を集めれば、全体的に人がいなくなる。札幌は北海道全体を食いつぶし、新しく入ってくる人がいなくなってきている。

 福岡市は九州をつぶして自分たちが栄えようとは思っていないと思う。周りと共生して、自由に人が出入りするモデルをつくってほしい。福岡市に来たら田舎にちゃんと帰って循環していく。札幌や東京がつくれなかったモデルをつくってほしい。福岡には期待している。

 宮本 要は大改革、大手術をしないと、日本社会は持たない。多数が「やるべし」と考えることから一つずつ実行に移すこと。そういう大改革の先頭に九州は立ってほしい。自治体レベルで実施可能な規制改革や制度改革を積極的に進め、特区制度も活用すればいい。その最大の障害は既得権益と政治の癒着にある。ここを厳しく突き、風穴をあけるのは西日本新聞の役割でもある。

【西日本新聞への注文】ニュース発信 英語でも 社会の自己修正の力に

 -その西日本新聞への注文を聞かせてください。

 徳増 2月10日付朝刊の永田健特別論説委員のコラム「時代ななめ読み」に、東京支社報道部の永松記者が書いた毎月勤労統計問題の記事のことが書かれていた。これスクープ報道なんですね。西日本新聞の神髄を見せたと思う。九州の新聞社だけど、東京で取材する記者がすっぱ抜いて、国会の議論につながっていく。

  僕も西日本新聞がこの統計問題を全国紙に先駆けて1面トップでやった時、びっくりした。すごいなと思った。このようなファクトをチェックする取り組みは、個人ではできないし、ネット上で誰かがやるとしても、その主体がよく分からないという問題がある。その意味で、新聞への信頼は高まっているのではないか。

 松田 そういう統計とかデータとか、行政の人は数字が苦手で、リテラシー(読み解く力)が低い。メディアも今後、データサイエンティスト的な人材を抱えていくことはすごく重要で、記事の質が上がっていくんじゃないかと思う。

 藻谷 さきほどラグビーワールドカップのパンフレットが配られて見たが、九州では3カ所で計10試合やる。それに対して、例えば関西は8試合しかない。人口は九州1300万人、関西2千万人。人口比に直すと…というのがデータの感性。

 これこそ九州の国際的感覚が高いことの証明だと飛びつくわけだ。だから、記事には、ただワールドカップやりますだけじゃなく、そういうことを書いてほしい。

 関根 「あなたの特命取材班」の展開が、すばらしいと思っている。いつも、あそこからという感じで西日本新聞を読んでいる。年明けから報じている警察官の副業疑惑も、日本の警察を揺るがす大きな問題で、大スクープだと思っている。あまり中央のメディアが取り上げておらず、残念だ。

 西日本新聞への注文としては、九州のことを伝える英語サイトの開設を期待している。これがないのは惜しい。インバウンドが増え、九州情報へのニーズが高まっている。最低限、英語サイトをつくってもらえば、中国人も韓国人も読めるはずだ。

 松田 昨年、高齢化した団地の課題を取り上げたふくおか都市圏版のシリーズ「団地新時代」。団地再生は本当に今、どこも悩んでいる。ああいうことをもっと掘り下げて、実際に何らかのムーブメントとか政策に落とし込めたらいいのかなと、いつも歯がゆさを感じている。

 宮本 新聞は世の中の積極的な側面をもっと取り上げてほしい。日本はいいんだと。当たり前のこと、常識的なことを言い続ける。普通の常識は、そんなに間違っていないからだ。日本社会の自己修正能力を先導していただきたい。

 それと、もう少しオール九州の姿勢を強めてほしい。(九州の他の新聞社と一緒に)ホールディングスにするなどして、道州制的なものを先に実現できないか。九州全体の視点から、記事を出していけるような。

 藻谷 九州が地方分権の旗をもう一度、掲げる機は熟している。西日本新聞は九州にフルコミットして、九州人意識を盛り上げるべきだ。同時に、九州内の「悪」や、地方自治の腐ったところを断罪し、正義の勢力を糾合して、九州内での自浄能力を発揮してほしい。

 ▼「提論 明日へ」 視界不良、不確実性が増す時代に、私たちが直面する課題の実像や深層を読み解き、「この先」について、九州ゆかりの有識者に執筆してもらう大型コラム。月曜日朝刊に掲載。提言委員は7人。座談会に出席した6人のほか、作家の平野啓一郎さん。コラムは2011年3月にスタートし、座談会は今回で8回目。

=2019/03/03付 西日本新聞朝刊=

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