夜間中学「公設」への期待 絶えぬ需要、「自主」が支え

西日本新聞

 経済的事情などにより義務教育を修了できなかった人や、外国から日本にやって来た人の就学機会の確保に役割を果たしてきた夜間中学。国内で今後、外国人労働者の受け入れ拡大が見込まれる中、文部科学省は都道府県に少なくとも1カ所は公立夜間中学を設置する目標を掲げる。ただ、九州には退職教師らがボランティアで指導する自主夜間中学はあるが、公立夜間中学はまだない。これからの夜間中学の姿とは―。

九州7県、なお「ゼロ」

 2月上旬、北九州市であった日本教職員組合の教育研究全国集会。特別分科会のシンポジウムのテーマは「『夜間中学』のこれまでとこれから」。福岡県や北海道で自主夜間中学の運営に携わってきた福岡大の添田祥史准教授(教育学)は壇上で「128187」という数字を挙げ、「何の数字だと思いますか」と問い掛けた。

 答えは、2010年の国勢調査で示された義務教育未就学者数。いわば学歴のない人たちだ。九州7県では福岡が全国4位の6543人と最も多く、鹿児島(3448人)、熊本(3028人)と続く。全体では10年間で3万人減っているが、添田さんは「学びたい思いを持ったまま亡くなった高齢者が多く、若年層は増えている。時間とともに消えていく問題ではない」と強調した。

 文科省によると、17年調査で公立夜間中学は東京、神奈川、千葉、奈良、京都、大阪、兵庫、広島の8都府県に31校ある。これに対し自主夜間中学・識字講座は307カ所、九州では11カ所(14年調査)に上る。

 公立と自主の違いは卒業資格。公立では学習指導要領に基づいた授業を教員免許のある教師が指導し、全課程修了で卒業となる。一方、自主は法律に基づく学校ではなく、指導内容も教室や受講生によって異なる。あくまで基礎教育の場で昼間も開講したり、利用者の送迎があったりするなど運営は多様だ。添田さんは「公立の整備は不可欠だが地域とつながる役目を果たしてきた自主夜間中学も含めて学びを保障するシステムを考える必要がある」と話す。

 シンポジウムでは夜間中学に通う5人が体験談を語った。「『学ぶことは生きること』の意味を深く胸に抱いて勉強していく」「自分に自信が付いた。感謝の気持ちでいっぱいです」

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 自主夜間中学の現状を見てみようと2月下旬、元教師やボランティアの大学生らで運営する福岡市の「よみかき教室」を訪ねた。

 水曜日の午後6時半。福岡市博多区の千代中の一室で年齢や国籍もさまざまな9人の授業が始まった。校歌を歌い、ラジオ体操をしてから1時間目は個人学習。新聞コラムの書き写しや漢字の書き取り、英単語学習などに取り組む。受講生の隣には講師が座り、マンツーマンで教える。会話を弾ませながら、和やかな雰囲気で時間は過ぎていった。

 受講生は好きな時に無料で学べる。ミャンマー出身の女性(43)はインターネットで教室の存在を知り、初めて出席した。来日して11年。日本語の会話やひらがな、カタカナの書き取りはでき、漢字を習得するために参加したという。「日本での生活に困らないようにしたい。勉強は本当に楽しい」とほほ笑んだ。

 教室の開設は1997年。韓国や中国、フィリピンの出身者や、不登校経験のある10人ほどが通う。「受講生を通して社会の矛盾が見えてくるんです」と共同代表の大塚正純さん(66)。技能実習で来日し1日12時間働いていると話していたアジア系の女性はしばらくして、顔を見せなくなった。彼女たちは来日後に日本語教育を受けているが「働くため、生活するために日本語能力で不安がある点を教室に頼ってきている。それでも余裕のない現実がある」と大塚さんは言う。

 教室の運営メンバーは、自主組織の役割や必要性を自覚しつつ、夜間中学の存在を知ってもらい、潜在的なニーズを掘り起こすには公的な拠点が必要との思いを持ってきた。17年9月には公立夜間中学の設置を求める請願や署名を福岡市議会に提出。ただ、義務教育未就学者の多い政令市が公立夜間中学を開設したり、開設を検討したりする中にあって、福岡市教育委員会の担当者は「他市にできる公立夜間中学の動向を注視したい」と述べるにとどめる。

 「福岡に一つでもできれば大きな意味を持つ。学びの場を探し求める人々にとって、学び直しをできることを示すともしびになる」。大塚さんたちは粘り強く訴えていくつもりだ。

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 よみかき教室は水曜の午後6時半~同8時半、金曜の午後7時~同8時半に毎週開講。

=2019/03/03付 西日本新聞朝刊(教育面)=

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