【とまり木どこに】学校編(2) 校内唯一の医療職、時に孤立感

西日本新聞

福岡市立のある特別支援学校で、小学部5年の男児に吸入する学校看護師(左)。担任(右)との意思疎通も密にし、チームで医ケアに対応する=2月26日午前(写真の一部を加工しました) 拡大

福岡市立のある特別支援学校で、小学部5年の男児に吸入する学校看護師(左)。担任(右)との意思疎通も密にし、チームで医ケアに対応する=2月26日午前(写真の一部を加工しました)

 親の付き添い負担を軽減し、障害がある子どもが通う学びの場を確保しようと、医療的なケア(医ケア)を事実上、一手に引き受ける学校看護師たち。その働きぶりの実態とは-。

 ●息切らして3時間

 昼食時間を目前にした午前11時半。福岡市立のある特別支援学校で毎日、保健室に待機する女性看護師4人の“スイッチ”が入る。

 たんを出しやすくする霧状の薬剤を気管に噴射する吸入が必要な子の処置からスタート。それから手分けし、栄養剤の胃ろうからの注入など食事の世話に当たる。たんの吸引は随時、対応。食事中にたんが増える子が多く、呼び出しの電話がひっきりなしに鳴る。

 こうした医ケアが必要な児童・生徒は小学-高等部に計19人。2階建ての横長の校舎で、彼女たちは階段を上り下りし、時には昼食を取る時間もなく、3時間近く教室を駆け回る。

 基幹病院の勤務経験が長く、5年前から同校で働くベテランのAさん(60)は「すぐ吸引に行けず、誤嚥(ごえん)気味の子どもの顔が真っ白になっていて、ヒヤッとしたことがあります」。

 最近は人工呼吸器の子も通う。訪問看護師から転身した6年目のBさん(40)は「昔は体調が落ち着いた子が多かったけれど、今はケアの内容も複雑で高度になっていて…。とにかく気が引き締まる思いです」。

 少人数でケアに携わる責任の重さ、不安…。学校内に常駐する唯一の医療職にとって、心理的な負担やストレスは、それだけが理由ではない。

 ●親の要望と隔たり

 吸引、注入など一人一人の医ケアの内容や範囲については、保護者が毎年度、基幹病院など子どものかかりつけの主治医が「学校看護師が実施できる」と認める意見書を添えて申請し、学校側が決定する。

 ただ食事や水分の注入は一応、時間を決めているにもかかわらず、授業が長引くなどしてずれ込むケースも。また子どもの体調によっては、親側からの「伝言」として予定時間外の処置を求められることもしばしば。ここ数年、在宅で注入に使う栄養剤の種類も増えている。マンパワーに限りがある学校で、どこまで対応できるのか-。その「臨機応変」の度合いは、現場の看護師の裁量に委ねられがちだ。「自分たちは嘱託職員で学校での上司もよく分からない。以前は誰にも相談できず、とにかく孤独で苦しかった」(Bさん)

 同校ではおととしから管理職が異動で代わったのを機に、看護師側と教員側が意思疎通を深め「チームとして医ケアにかかわろうとする意識が格段に高まっている」(Aさん)という。

 一方、他校ではより学校での医ケアの「充実」を求める保護者と、その負担軽減を第一に考えつつも「安全」の担保に頭を悩ませる看護師の間で“摩擦”が生じ、エスカレートすることも。福岡県内の別の特別支援学校では2017年9月、学校看護師4人全員が一斉に、年度途中での退職を申し出た。「たんの吸引の頻度や程度などを巡る親側の要望に対して、看護師側がプレッシャーを感じた」(関係者)のが発端という。新たに看護師を補充するなど、県教育委員会は対応に追われた。

 ●基幹病院と連携を

 「日常的に子どもと接する親は、このぐらいの体調なら学校に任せても大丈夫という経験値を基にした判断の線引きがある。母子世帯など仕事が外せず、可能な限り預かってほしいというニーズもある。看護師ら学校現場が安全と判断する基準とは、なかなかかみ合わない」。そう指摘するのは、昨年まで聖マリア学院大看護学部の准教授などを務め、全国の学校看護師らの実態調査を手掛けた元研究者の田中千絵さん(56)=同県久留米市。

 万が一の事故が起こった場合、その責任は学校側に重くのしかかる。田中さんが提案するのは、学校での医ケアの指示書を書く主治医らが所属する基幹病院との連携強化だ。

 「その子を生後ずっと診てきた主治医や看護師がいる病院が、学校側と看護技術の研修を重ねるなどバックアップすれば、子どもが安心して通える環境を整えることができる。医療側が積極的に、地域で医ケア児をサポートする中心的役割を担うべきではないか」

 学校現場だけを孤立させない知恵と工夫が、地域にも求められている。 

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 【ワードBOX】学校看護師

 福岡市立の特別支援学校では嘱託職員として市教育委員会に採用される。1年契約で勤務は1日5時間半。病院のように制服はなく、普段着にエプロン姿で教員と同様に「先生」と呼ばれる。聖マリア学院大看護学部の研究者による実態調査(2017年度)によると、全国の特別支援学校の勤務者のうち非常勤は82%。学校での平均経験年数は4~5年。仕事にやりがいを感じている半面、雇用条件や処遇の改善を求める声も目立ったという。

=2019/03/07付 西日本新聞朝刊=