【動画あり】ネパールからの報告(下)夢のビザ 独り歩き

西日本新聞

 ネパールの首都カトマンズは朝から晩まで渋滞がひどい。車が巻き上げる砂ぼこりと排ガスが漂う街で、目立つのは若者たちの姿。平日の昼間にもかかわらず、散歩や立ち話を楽しんでいる。聞けば「仕事がなく金もない。他にすることもない」からだという。

日本語力 留学より上

 少子化が進む日本と違い、ネパールには10~30代の人口が圧倒的に多い。だが、彼らの受け皿となる産業は乏しく、若さを持て余す世代の一部が留学や出稼ぎで海外を目指す。

【動画】カトマンズの南に位置する古都パタンの日本語学校。外国人労働者の受け入れ拡大に向け、日本が新たに創設する在留資格「特定技能」で日本行きを目指す人たち

 現地で期待が高まる日本の「労働ビザ」解禁。若者への認知度は想像以上に高い。泊まったホテルの男性従業員(23)が「日本で働けるらしいですね。僕も日本語を勉強しようと思う」と話し掛けてきたほどだ。

 ただし、「労働ビザ」の取得は、留学よりも難易度が高い。この事実を、ネパール人の多くは正しく認識していない。

 留学の条件は、日本語能力試験で最低ランクの「N5」相当。「基本的な日本語を、ある程度理解できる」レベルだ。一方、労働ビザの条件はワンランク上、基本的な日本語を理解できる「N4」以上。「N5」に到達できない大学生も少なくない中、労働者はそのさらに上を求められる。

 介護や外食、建設など受け入れ業種別の技能試験に合格する必要もあるが、試験対策に乗り出している日本語学校は極めて少数だ。

 期待感だけが膨らみ、独り歩きする現状に、カトマンズの日本語学校経営、ラムさん(仮名)は強い危機感を抱く。「労働ビザは良い制度だ。ただし、日本人にとってはね」

 ラムさんは、韓国が2004年に創設した外国人労働者の受け入れ制度の例を挙げ、日本の新制度を厳しく見つめる。

 「同じことを繰り返すに違いない。当時は7万人が韓国語を学習したのに、実際に働けたのはわずか2千人。6万8千人の若者のお金と時間を浪費した」

 企業の目で厳しく選別され、運良く働くことができても、企業の都合で切り捨てられる。そんな同胞の姿を見てきたラムさんは「人手不足ならば留学生を雇えばいいのに、立場が弱い労働者のほうが都合がいいんでしょうね。日本人は賢い。いや、ずる賢いね」

 帰国便を待つカトマンズの空港。ドバイ行きの深夜便にはネパール人の長い列ができていた。過酷な出稼ぎ先に向かう暗い表情を眺めていると、「日本で働きたい」と話してくれた人たちの顔が浮かぶ。家族を養う父親、子育て中の母親、貧困から抜け出そうとあがく若者…。ふと、ある学校で出会ったネパール人女性の問い掛けを思い出した。

 「私、本当に日本に行けますか?」

 彼や彼女たちにも「黄金の仕事」が巡ってくるのか、ラムさんの懸念が当たってしまうのか。新制度が始まる4月以降、答えは明らかになっていく。

=2019/03/05付 西日本新聞朝刊=

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