【DCの街角から】米朝首脳会談は「失敗」?

西日本新聞

ベトナム政府が開設した米朝首脳会談のプレスセンター。黄色い線で囲われた一角が急きょ、ホワイトハウスのプレスセンターとして使用されることに=2月26日夕、ベトナム・ハノイ 拡大

ベトナム政府が開設した米朝首脳会談のプレスセンター。黄色い線で囲われた一角が急きょ、ホワイトハウスのプレスセンターとして使用されることに=2月26日夕、ベトナム・ハノイ

 始まる前から準備不足は明らかだった。2月27、28日にベトナム・ハノイで開かれた2度目の米朝首脳会談だ。

 特に米ホワイトハウスのドタバタぶりは顕著で、北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長の宿泊先のホテルにホワイトハウスが設置予定だったプレスセンターは会談前日に急きょ移転となり、ベトナム政府が別の場所に設けたプレスセンターの一角を間借りすることに。私と同僚記者が確保していた席がまさにその場所。担当者から突然「別の席を探して」と追い払われた時はあまりの不手際にあきれ果てた。

 実務協議はおろか事務的な段取りの調整もできないような状態で、本題の北朝鮮の非核化協議がうまくいくはずもなく、結果は「進展ゼロ」。事前に最悪のシナリオとして「非核化の進展はないが、協議継続で合意」の事態を想定してはいたが、「何かしらの前進はあるだろう」と高をくくっていたため、結果を知った時には言葉を失った。

    ☆    ☆

 トランプ大統領と正恩氏は共に首脳会談を続ける意向は示したものの、口約束にすぎず、米朝協議の行方は一気に不透明感が増した。トランプ氏は「交渉では時に席を立つことも必要だ」と自らの判断を正当化するが、苦し紛れの言い訳と受け取る人は少なくない。

 「偉大な大統領」との名声を得たいトランプ氏は「北朝鮮とは戦争になりかけたし、協議も決裂しかけたが、結局うまくいった」というストーリーを思い描いて合意点を見いだそうとする、と見るのが一般的だろう。

 だが、トランプ氏を支持する保守層からは「不利な譲歩をするくらいなら合意しない方がましだ」との声が上がる。

 そもそも多くの米国民にとって北朝鮮の非核化は喫緊の課題とは言い難い。「北朝鮮が核保有国でないと思う国民などいない」(米政府関係者)が「太平洋を越えてミサイルが飛んでくる」と本気で案じる米国人に会ったことはない。今回の会談後の世論調査では、トランプ氏の対北朝鮮政策の支持率は昨夏より下がったものの、支持率と不支持率はともに約45%だった。

 「会談は失敗した」と断じるのは簡単だ。ただ現実に核・ミサイル実験は停止し、拘束されていた米国人や朝鮮戦争で戦死した米兵の遺骨が帰ってきたことへの国民の評価は低くない。トランプ氏に批判的なメディアがいくら「失敗」と叫んでも、そんな報道には目もくれない人たちが驚くほど大勢いる。

 そんな現状では、非核化の期待を高めただけで大統領の1期目を終えたとしても、失敗とは見なされないかもしれない。逆に「妥協せず、制裁を貫いた」と言い募ることで、強いリーダーとしての“武勇伝”にすらなり得る。 (田中伸幸)

=2019/03/09付 西日本新聞夕刊=

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