【とまり木どこに】学校編(3) 専門外に懸念、教員への拡大手探り

西日本新聞

福岡市のある特別支援学校の教室で、受け持ちの男児に胃ろうからお昼の注入をする担任=2月 拡大

福岡市のある特別支援学校の教室で、受け持ちの男児に胃ろうからお昼の注入をする担任=2月

 たん吸引など医療的なケア(医ケア)が必要な子どもが親の手を離れ、学校で安心して学べる環境を確保する「担い手」として、看護師とともに役割が期待される教員たち。その裾野を広げる取り組みが、なかなか進まないのはなぜか。

 ●年度末にようやく

 「とにかく手続きが多くて…。大変なんです」。福岡市立のある特別支援学校で、管理職はこぼす。

 医療職ではない教員が医ケアを手掛けるには現行法上、一定の研修(3号研修)を受ける必要がある。どの子にも、自由にできるわけではない。「A君の口の中の吸引」「Bさんの胃ろう注入」など、子ども一人一人特定の行為について手技を学び、それぞれ認定を受ける。教員からの医ケアを希望する保護者に手を上げてもらい、担任が受講する場合がほとんどだ。

 ただ-。市教育委員会は基本研修を、まとまった時間が取れる夏休みに開催。各校での実地研修は2学期から始まる。体調によって登校が少ない子どもが対象だと、なかなか進まない。

 子どもの主治医からの指示書、市教委への報告、認定証の交付など事務作業も煩雑なため「結局、手続きが終わるのは年度末近く」(管理職)。新年度に担任の持ち上がりがなく、新しい担任が初めて医ケア児に対応する場合はまた「一からのスタート」となる。2016年度から研修を始めた市教委は18年度までの目標認定者を延べ55人と見込んだが、実際は28人。実施者は現在6人にとどまる。

 ●慎重になるあまり

 そもそも、教員への拡大を推進する機運も高いとは言い難い。

 市教委は拡大する狙いについて「教員が子どもとの関係性を強められる」(発達教育センター)と教育的意義を強調してきた。看護師に比べ、担任は教室で医ケア児と長い時間を過ごし、体調や「今、吸引が必要」など判断もしやすい。医ケアを自らが行うことで、子どもの信頼や安心感も増す。

 半面、医ケア児が増加傾向にあることや、親の付き添い負担を軽減する役割については「主たる理由・目的ではない」(市教委)との立場だ。教員による医ケアには、市議会でも「安全面」を理由に異論も相次いだ。一時は「教員に肩代わりさせ、看護師を減らすつもりでは」との臆測があったことも背景にある。

 また市教委は当初から、国が「教員にも可能」と位置付けているにもかかわらず、気管切開している子の喉の管(カニューレ)からの吸引には、対応しない方針も決めている。医師や弁護士らの意見も聴いた上で「事故の危険性が高い」と判断したという。

 慎重になるあまり、医ケアの担い手の行為を線引きした形。看護師による行為でさえ限定するなど、消極的な「地域ルール」は各地に存在してきた。全国で3号研修の講師を務め、学校現場の医ケア事情に詳しいNPO法人「地域ケアさぽーと研究所」(東京)理事の下川和洋さん(53)は「国の指針に照らし合わせても、家族が納得できる正当な理由を説明できないルールばかり。その結果、親の手を離れて学ぶ子どもの環境づくりに地域差が出ている」と問題提起する。

 ●保護者も免許なし

 市教委が14年に実施したアンケートで、医ケア児の保護者の約8割が教員による医ケアを「可能」と答えている。教員は原則、看護師のチェックなどバックアップを受けながら手技を行うことになっており、何より、医ケアの知識を持つ大人がわが子の周りに増えることが、親にとっては心強い。

 「最初は自分にできるのか葛藤もありました」。昨年12月から週2回、男児(11)に胃ろうの注入を行う女性担任のCさん(48)は、特別支援学校での指導歴が二十数年のベテランだ。

 「呼吸状態が悪くなる子もいて、命の危険と隣り合わせという不安も正直あります。でも、看護師免許を持っているわけではない親御さんが毎日やられていることだし…。看護師さんにも一緒にみてもらえる。前向きにとらえています」

 肢体不自由の子どもが通う支援学校では、多くが先生に給食を食べさせてもらう。Cさんが目を覚ましていた男児に初めて注入した翌日。看護師が注入しようとすると、男児は不思議そうにCさんを目で追い掛けた。「きょうは何でC先生じゃないのって思ったの?」。看護師の問いに、彼はパチッとまばたきした。僕にもまた食べさせてね。クラスメートと同じように-。

 【ワードBOX】3号研修

 医療的ケアの一部を業務として行う教員らが、その認定を受けるため、必要な知識や技能を習得する研修。医師の指示や看護師との連携の下で(1)口と鼻の中、気管切開した人が喉に着ける管(カニューレ)内部のたん吸引(2)胃ろうや腸ろう、鼻に通す管からの栄養注入-が可能となる。福岡市は教育委員会が座学などの基本研修(9時間)を実施。各校で実地研修し、学校看護師が実際に教員の子どもへの手技を「十分な技量」と判断するまで行う。修了すれば県知事に申請、認定証が交付される。2012年の法改正で制度化された。

=2019/03/14付 西日本新聞朝刊=

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