フェイクと戦う新聞

西日本新聞

 私は人間の器(うつわ)が小さいせいか、自社以外の新聞やテレビの報道をあまり褒めたがらない傾向がある。

 しかし、そんな私でも時折、「同業者ながら、いい仕事してるなあ」と素直に感心する記事や企画に出合うことがある。

 沖縄の地元紙、琉球新報が昨年の県知事選の期間中に展開した「ファクトチェック(事実点検)」報道もその一つだ。

   ◇    ◇

 翁長雄志(おながたけし)知事の死去に伴って昨年9月に実施された沖縄県知事選では、米軍普天間飛行場の辺野古移設を巡り、移設反対の玉城(たまき)デニー氏と、移設を推進する安倍晋三政権の後押しを受けた候補が激戦を展開し、玉城氏が圧勝した。

 その選挙の最中、インターネット上では知事選の候補や沖縄の政治を巡って真偽の分からない情報が乱れ飛んだ。突然現れたサイトに玉城氏を執拗(しつよう)に攻撃する書き込みがあふれ、その情報が会員制交流サイト(SNS)で引用、拡散される事態に発展した。

 こうしたサイトから「玉城氏が若い頃、大麻を吸った」という「大麻疑惑」が発信された。玉城氏側が名誉を毀損(きそん)されたとして被疑者不詳で法的措置を検討する一方、対立候補を応援する元首長がフェイスブックで情報をシェアするなど「疑惑」として広がった。

 この事態を受け、琉球新報は疑惑情報に名前が挙がっていた関係者に取材。「全部ウソだ」「勝手に名前を使われた」の証言を得て、「真偽不明情報が大量拡散」と有権者に注意を促す記事を掲載した。

 同紙は他にもネット上の情報や政治家の発言に関し「事実」か「偽(フェイク)」か確認(ファクトチェック)できたことを選挙期間中に記事化し、紙面やウェブサイトで発信した。

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 私がこの報道に感心したのは、同業者ゆえに「相当な労力がかかり、瞬発力も要求される」取材であったと想像がつくからだ。

 現地でこの取材に加わった滝本匠(たくみ)・琉球新報東京支社報道部長に聞いた。

 -選挙期間中のファクトチェック報道は「一方に有利になる」と批判されるリスクもあったのでは。

 「間違った情報を放置すれば有権者が間違いに基づいて投票することになる。それでは民主主義の根っこが揺らぐ。選挙期間中こそ間違った情報を正していく必要があると考えた」

 -報道の手応えは?

 「今年の県民投票でもこの報道を続けたが、記事を出すとネットで『また琉球新報がファクトチェックしてるぞ』と反応してくれた。週刊誌の『文春砲』になぞらえ『新報砲』と呼ばれることもあったほどです」

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 琉球新報は県知事選に絡むツイッター(短文投稿サイト)の投稿約20万件を分析した。批判や攻撃の書き込みの約9割が、玉城氏に対するものだったという。同紙は取材班を組み、こうした匿名性に隠れた情報発信の背後に何があるか、さらに取材を続けている。

 ネットのフェイク情報とそのチェックは、もぐらたたきのようにしんどい仕事である。いやな時代になったと思うが「やりがいがある」という記者たちの明るさに救われる。琉球新報には今、ファクトチェックのノウハウについての問い合わせが相次いでいる。

 (特別論説委員)

=2019/03/17付 西日本新聞朝刊=

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