【とまり木どこに】学校編(4)スクールバス代替機能、待ったなし

西日本新聞

福岡市立のある特別支援学校で、帰りのスクールバスのシートに座る児童たち。バス介助員(下)から見守られ、車内の雰囲気は明るい=13日 拡大

福岡市立のある特別支援学校で、帰りのスクールバスのシートに座る児童たち。バス介助員(下)から見守られ、車内の雰囲気は明るい=13日

 医療的ケア(医ケア)が必要な子どもは、特にたんの吸引が必要な場合、親が自家用車で送迎しない限り、通学は難しい。走るスクールバスの中での吸引は危険性が高いとされ、福岡市立の特別支援学校でも車内での対応はしていない。

 ただ、親の送迎負担を軽減するため「乗車中に吸引しなくても体調を崩さない」と判断されれば、乗車が認められている。そんな子どもの通学風景は-。

 ●車内介助にリスク

 ある支援学校では毎日6台を朝夕運行。最大69人が乗車し、うち医ケア児は9人、たん吸引が必要な子どもは6人。車内では「バス介助員」が1台2人態勢で、子どもたちを見守る。しかし-。「この仕事が大好きでずっとやってますが、もし事故が起こったらと考えると本当に怖いです」。介助員歴約20年のAさん(49)は伏し目がちに語る。

 介助員は、市教育委員会が運行を委託する民間のバス会社側から雇われている。介護士などの資格は必要ではなく、もっぱら経験則で、車内の「安全確保」を一手に引き受けてきた。

 運行は片道約1時間。1台に6~16人が乗り、医ケア児は0~3人。だが医ケアが必要ない子でも、急なけいれん発作や嘔吐(おうと)はある。一人一人の顔色を常に観察し、呼吸や声の状態に耳を澄ませる。医ケア児が急にたんが出た場合は背中をたたいたり、前かがみにしたり。何とか自力で口から出してもらい、ティッシュで手早く拭き取るしかない。

 万が一のときには停車し、救急車を呼ぶ手はずだ。ただ交通渋滞もあり、バスは簡単には止められない。訪問介護のヘルパーの仕事もしているBさん(43)は「たとえ看護師でも、身動きが取れない大型バスは怖いのでは」。

 空気を読み、たんを出すのを静かに我慢している子もいる。「何とか子どもが車に乗れて、苦しい思いもせず、楽しく学校に行ける環境が整えば、と思うんですが…」(Aさん)

 ●親の送迎は安全?

 学校側は下校時も医ケア児が乗れるかどうか、毎日慎重に判断している。以前は看護師が車内に乗り込み、発車ぎりぎりまでたんを吸引していたものの、「かえって誘発しかねない」との懸念もあり、やむなく「ベースライン」(管理職)を設定。玄関を出たら原則、吸引はせず、その後にたんが出れば、保護者に迎えに来てもらう。

 もっとも、親がマイカーで送迎するにしても、吸引のたびに車を路肩などに止め、狭い車内での対応を迫られる。医ケア児にとって、決して「安心、安全」な環境とは言い難い。

 最近は障害児向けの学童保育「放課後等デイサービス」で医ケア児も預かる事業所が増え、送迎にも対応する。学校やバス停には放課後、事業所のワゴン車がずらりと並ぶ。看護師らが同乗し、利用後は子どもを自宅まで送り届ける。「放課後デイで可能なのに、なぜ通学ではできないのか」「日ごろ利用している訪問看護師さんが送迎してくれるような仕組みがあればいいのに」…。親たちの間では、そんな声も上がる。

 ●福祉サービス併用

 全国的には近年、スクールバスの代わりに小型のワゴン車などを使った自治体による通学支援が広がりつつある。中でも滋賀県は2014年度から、県立の支援学校に通う医ケア児を対象に、保護者支援のための実証研究事業を続ける。ユニークなのは、各市町の福祉サービスを併用した支援制度を模索している点だ。

 県教委は訪問看護ステーションに委託して、同乗する看護師を確保。車両での送迎は福祉部局と連携し、各市町が付き添うヘルパーなどを派遣する「移動支援」や「居宅介護」、NPOなどが実費の範囲内で自家用車などを運行する「福祉有償運送」など、既存の制度と事業を組み合わせている。

 移動支援は原則、通学での利用を認めない市町が多く、福祉有償も含めて利用者負担が発生。事業所側への報酬も不十分で、車両や看護師の確保も簡単ではない-など、地方共通の課題は少なくない。

 それでも関係市町に協力を呼び掛け、初年度の1市から本年度までに14市町が事業に参加。今は医ケア児1人当たり、年10回の利用に限っているが「安全性を担保し、持続可能な制度設計を、市町や事業所と合意形成しながら検討したい」と担当者。20年度以降の早い時期に、本格実施を目指す。

 まさに教育、福祉、医療の「枠」を超えた試みが不可欠な課題だけに、自治体側には早急な試行錯誤が求められる。

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 【ワードBOX】医療的ケア児への通学支援

 東京都は本年度、小型ワゴン車などの専用通学車両と看護師を約6億円かけて確保し、対象児が在籍する全17校に導入。大阪府は新年度、既に介護タクシーに看護師を同乗させている大阪市を参考に、モデル事業に乗り出す。長崎県平戸市は福祉サービスの移動支援の枠組みで、市社会福祉協議会の看護師資格を持つヘルパーが民間のマイクロバスに乗る形で対応中。こうした実態を踏まえ、文部科学省は2月、医ケア児のスクールバスなど専用通学車両への乗車可能性を「できる限り追求することが必要」との留意点を取りまとめた。

=2019/03/21付 西日本新聞朝刊=

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