スラムから見た総選挙 貧困、麻薬の対策を/どの候補も嫌 タイ24日投開票

西日本新聞

タイ最大のスラム、クロントイ地区。粗末な家が並ぶ細い路地にも政党の選挙ポスターがあった 拡大

タイ最大のスラム、クロントイ地区。粗末な家が並ぶ細い路地にも政党の選挙ポスターがあった

「選挙の結果はクロントイの今後に大きく影響する」と語るプラティープ・ウンソンタム・秦さん 八木沢克昌さん

 24日投開票のタイ総選挙では軍政の是非やタクシン元首相派の勝敗という点にメディアの関心が集まっている。だが、この国最大の課題は貧富の格差。外資系投資会社が昨年出したリポートによると「格差が世界一大きい国」。高層ビルが立ち並ぶ首都バンコクの郊外にあるタイ最大のスラム「クロントイ・スラム」の人たちに、この選挙はどう見えているのだろうか。 (バンコク川合秀紀)

 バンコク都心から車で約20分。約4キロ四方に粗末な家屋がひしめき、屋台の食べ物と生活ごみのにおいが路地に入り交じる。10万人以上が暮らす日常と違うのは、毎日政党が遊説に来ることと、至る場所で政党ポスターが見られることだ。

 道端に座っていた女性のティムさん(61)は早口で選挙の見通しや投票ルールを語った。以前、タクシン派を支援するデモに参加し、治安部隊の銃撃も体験した。「ずっと選挙を待っていた。みんな勉強しているよ」。夫と配達業をしているが暮らしは厳しい。クーデターを主導したプラユット暫定首相を「金持ちや大企業だけを相手にしている」と手厳しい。

 40以上ある地区の一つのリーダー、トンハムさん(63)の表情も険しい。このスラムは1960年代、港湾整備のため出稼ぎ者が集まってできた。海外からの出稼ぎを含め、なお人口は増え続ける。「高齢化が進んで実は寝たきりの人も増えている。水道の整備もごみの処理も全然追いついていない。行政も政治家も見て見ぬふりだ」

 住民が訴えるのは生活改善だけではない。麻薬のまん延だ。2001年以降のタクシン派政権時、強硬な麻薬撲滅対策に批判はあったがスラムから麻薬が消えた。しかし今、再び麻薬が出回っているらしい。2歳のひ孫を抱えた女性(86)も「若い人のために麻薬は何とかなくしてほしい」。

 屈強な体格の清掃業キッジャーさん(42)は冷めていた。「選挙? どうせ変わらない。またけんかして混乱するんだろう?」。以前は政治に期待していたが、何度も衝突やクーデターを見るうちに嫌気が差した。今回、投票はする。でも「『NO VOTE』でやる。どの候補も嫌だと」。白票は無効だが、自分なりの意思表示と考える。

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 軍政は「都市の浄化」を掲げ、インフラ整備を強化する一方、屋台の撤去を進める。クロントイについても、住民の反対で停滞していた地区の再開発計画を急ぐ方針とみられる。クロントイで生まれ育ち、住民支援に取り組む「ドゥアン・プラティープ財団」創設者のプラティープ・ウンソンタム・秦さん(66)は「『スマートシティー』というきれいな開発計画の実態は立ち退き。住民は高層マンションに移れるが仕事は保証されない。住民のためというより、大企業や投資家のための計画だ」と話す。

 地区内に住み支援を続ける非政府組織(NGO)「シャンティ国際ボランティア会」アジア地域ディレクターの八木沢克昌さん(61)の思いは、タイと結びつきの深い日本にも向けられる。日系5千社以上が進出し、日本人約7万人が暮らす。「日本企業のビジネスは結果的に、弱者を搾取する格差の構造に支えられている」。すぐ向こうに高層ビル群が見えるスラムの路地を歩きながら実感する。「だからこそ、この選挙は日本とも無縁ではないんです」

=2019/03/24付 西日本新聞朝刊=

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