毎春、日本人がこぞって待つ桜の開花宣言…

西日本新聞

 毎春、日本人がこぞって待つ桜の開花宣言。今年は長崎が全国一番乗りで、翌日に福岡も続いた。この時季になると、あの一文を思い出す。〈桜の樹(き)の下には屍体(したい)が埋まっている!〉

▼梶井基次郎の短編小説「桜の樹の下には」の書き出し。もちろん死体など空想である。梶井はそう感じる理由を〈何故(なぜ)って、桜の花があんなにも見事に咲くなんて信じられないことじゃないか〉と記した

▼確かに、日本の桜の見事なまでの美しさは、この世のものとは思えない。空を覆って一斉に咲き、10日ほどで潔く散る。梶井は、人や犬猫の死体の養分を貪欲に吸い上げるから桜は爛漫(らんまん)と咲くのだ-と空想を膨らませた

▼小説が構想されたのは1927年。26歳の梶井は、結核の療養先の伊豆・湯ケ島で、年上の女性作家、宇野千代と恋に落ちる。だが、結核は当時、恐るべき病で、結婚など明るい未来は展望できなかったはずだ。若さの絶頂で感じた死の予感が、梶井に桜の下の死体を連想させたのかもしれない

▼卒業と入学に退職と新入社。桜は、別れの悲しさと出会いの喜びを併せ持つ。その咲き方と散り方は、命の始まりと終わりが表裏一体であることも教えてくれる。満開の花に、亡き肉親や友人の笑顔を重ねる方も多いだろう。筆者の亡き父と祖母も桜開く3月の生まれだった

▼きょう24日は檸檬(れもん)忌。代表作「檸檬」にちなんだ梶井の命日である。享年31だった。

=2019/03/24付 西日本新聞朝刊=