【とまり木どこに】学校編(5)地域の学校にも通えるように

西日本新聞

 医療的なケア(医ケア)があっても、地域の学校に通いたい-。こうしたニーズに応じるため、小中学校でも、受け入れ態勢を整え始めている。

 ●自ら吸引してでも

 1年も前に買ってもらったキャメル色のランドセルを背負い、白水逞磨(たくま)君(6)は入学式を楽しみにしている。4月から、自宅から徒歩約10分の東住吉小(福岡市博多区)に通う。「特別支援学校に行く必要が全く感じられなかったので…。認められて、本当にほっとしました」。母のさくらさん(23)は目を細める。

 生まれつき肺に疾患があり、気管切開している。たんの吸引が必要で、睡眠時や、何かに集中するときは呼吸が浅くなり、人工呼吸器を使うこともある。

 それでも2歳半から児童発達支援事業所(同区)に通い、活発に動いて遊んだり、掃除したり、お絵描きしたり…。周りに笑顔を振りまく元気な男の子だ。

 重い障害があるわけではない、こうした「歩ける医ケア児」は各地で増えつつある。にもかかわらず、同市では小中学校に看護師がおらず、ほとんどは親が待機するか、支援学校に通うしかなかった。

 何とか逞磨君が小学校に入学できないか-。さくらさんは昨春から、同事業所の統括責任者で相談支援専門員の川津有紀さん(44)とともに奔走した。市教育委員会や学校に希望を伝えたほか、逞磨君の九大病院の主治医や訪問看護師、学校などの関係者に集まってもらい、小学校に通うための助言を求めた。「自分で吸引できたら、学校に通える可能性も出てくるのでは」(川津さん)と考え、逞磨君自身に、鏡を見ながら自分で喉の管(カニューレ)に専用機器の細いチューブを差し込み、吸引する方法も覚えてもらった。

 昨年11月、市教委は逞磨君が小学校の特別支援学級に通うことを認める判断をした。事実上、新年度から看護師を配置する方針が固まったからだ。

 ●保育ニーズも拡大

 実際、市教委側も水面下で準備を急いでいた。

 子どもに医ケアが必要でも、自身が就労できる環境を望む親は少なくない。集団保育が可能な医ケア児を受け入れるため、市こども未来局は本年度から、市立保育所1カ所に看護師を置くモデル事業をスタート。同局の実態調査によると就学前の医ケア児は少なくとも70人に上り、新年度は4カ所に拡大する。「わが子を地域の学校に通わせたいニーズは今後、ますます高くなる」(関係者)とみられる。

 一方、国は障害の有無にかかわらず同じ場で学ぶ「インクルーシブ教育」を推進する立場から、2013年に関連法令を改正。文部科学省は、障害児は「原則、特別支援学校に就学する」とされていた仕組みを改め、地域の学校に通いたいとの本人や保護者の意見も最大限尊重するよう、自治体側に求めてきた。

 16年度には、看護師配置のための補助金の対象を支援学校だけでなく、公立小中学校に拡大。17年度は20政令市中、既に14市が小中学校に看護師を置く。医ケア児の地域の学校での受け入れに、福岡市もようやく、一歩を踏み出した格好だ。

 市教委によると本年度、小学校に5人の医ケア児が在籍。学校での医ケアはすべて保護者が対応していた。4月から小学校6校に看護師を配置し、この在校生を含めて計8人の医ケア児に対応する方針という。

 ●通常学級とも交流

 支援学校とは異なり、地域の学校の教員や児童にとって医ケア児は初めて。学校現場の理解と協力も欠かせない。「学校指導医や看護師と連携し、逞磨君が安心して学習できる環境をつくっていきたい。できれば通常学級のお友だちも増やしてほしい」。辻優子校長(57)はそう話す。

 支援学校に長く勤め、たん吸引が必要な子と接した経験も。昨年6月の運動会には、新1年生になる地域の園児らとともに逞磨君も招待。「旗取り」を小走りで楽しむ姿を見守った。

 4月から、本人の症状や医ケアへの留意点、緊急時の対応、安全面や衛生面での児童への指導も含め、校内で研修を重ねる予定だ。

 「同年代の子どもと集団の中で勉強する、当たり前の学校生活を楽しんでくれればうれしい」とさくらさん。「皆が自分の行きたいところに行き、したいことができるようになってほしいです」。支援学校でも、地域の学校でも-。本人や親が自由に通学先を選べる環境が整うよう願う。

 ▼小中学校での受け入れ 文部科学省の調査によると2017年5月現在、公立の小中学校で日常的に医療的ケアを受けている児童・生徒は通常学級が271人、特別支援学級は587人で計858人。学校に配置された看護師は553人で、年々増えている。

=2019/03/28付 西日本新聞朝刊=

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