【動画あり】「戸隠そば」福ビルと共に幕 創業57年29日閉店 昭和のサラリーマンが列

西日本新聞 ふくおか都市圏版

 福岡市・天神の再開発に伴い、4月上旬に閉館する福岡ビル(福ビル)の地下飲食店街で、福ビル開業時からサラリーマンらの胃袋を満たしてきた「戸隠(とがくし)そば」が29日、閉店する。関東風つゆと揚げたてのエビ天ぷらが自慢の「天ざるそば」をはじめ、福岡都市圏の市民のみならず転勤族からも愛されてきた老舗。平成の終わりとともに静かにのれんを下ろす。

 「天ざる、いちまぁ~い」

 26日の昼時。店舗の大半が既に立ち退き閑散とした福ビル地下1階に、女性店員のひときわ威勢の良い声が響いた。ここ「戸隠そば」の店内だけは別世界。連日、閉店を惜しむ常連客でにぎわい、店主の安達文子さん(74)は「とにかく、ここにきて慌ただしくなって。(店員が)昼食を取る暇もなかった、昭和の頃を思い出します」-。

 ラーメンはもとより、うどんも「激戦地」である福岡で、長野・信州そばの流れをくむ屋号で1962年に創業した「戸隠そば」。千葉県銚子市から取り寄せる濃口しょうゆと、サバとカツオの削り節を掛け合わせた甘辛のつゆ。客が入り口でメニューを選んで代金を払い、色別の食券を受け取る「有人券売」の注文方法。いずれも、半世紀を超えて守ってきた。

 開店当初は、高度経済成長期のまっただ中。天神の飲食店はまだ少なく、お昼時には店の外まで行列ができた。4人相席のテーブルに、企業戦士たちが肩をすぼめるように詰めて座り、そばをうまそうにかき込む。次の順番を待つ客が食器を片付ける、そんな光景もしばしば見られた。

 東京の大学を卒業以来、ずっと店を切り盛りしてきた安達さんは「天神には、全国から企業の支社や支店が集まってきました。関東から転勤してきた人たちが故郷の味を懐かしんでいたのでは」と振り返る。

 時は流れ平成に入ると、外食産業も多様化したためか「戸隠そば」にも変化が生まれた。

 1人で来店した買い物帰りのお年寄りが相席同士で意気投合し、連絡先を交換し合ったり、長年の常連客が子や孫を連れて4世代一緒にやって来たり…。「店員がお客さんと会話する余裕も、少しできて。居心地が良さそうな人を見ると、こちらもホッとしました」と安達さん。

 福ビル閉館が決まり、移転先を約1年半かけて探してきたが、天神には希望に沿う場所が見つからなかったという。「(近郊への)移転を求めるお客さんもいましたが、やっぱり天神が好きだから」。そばをじっくり味わい、土産物をそっと取り出し、「お疲れさま」とねぎらいの言葉を掛けてくれる人もいる。安達さんはその後ろ姿が見えなくなるまで、頭を下げて見送っていた。

=2019/03/29付 西日本新聞朝刊=

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