「松橋」無罪判決 司法改革をさらに進めよ

西日本新聞

 冤罪(えんざい)の無念を晴らすには、あまりにも長い時間だったに違いない。「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の大原則を柱に、刑事司法制度の改革をさらに進めるべきである。

 熊本県の松橋(まつばせ)事件で服役した宮田浩喜さん(85)について確定した殺人罪の再審で、熊本地裁は無罪判決を言い渡した。

 逮捕から34年がたつ。宮田さんは既に介護施設で寝たきりの状態になっており、法廷で直接判決を聞くことはできなかった。汚名を着せられたままの半生は不条理と言うほかはない。人権を踏みにじった国家権力の罪の重さを改めて問いたい。

 きのうの判決で熊本地裁は「(宮田さんが)犯人であることを示す証拠はなく、殺害したとは認められない」と断じた。

 この事件は元々、有力な証拠が乏しく、一審の公判途中まで犯行を認めていた宮田さんの自白の信用性が争点だった。

 再審請求審では、宮田さんが凶器の小刀に巻いて使った後に「燃やした」とされていたシャツの布片が現存していたことが、再審決定の柱となった。弁護側の請求で熊本地検が開示した証拠約100点の中から見つかった。自白について裁判所は再審決定時に「取調官の追及に迎合して作り話をした疑いがある」とまで踏み込んでいた。

 自白調書を偏重する捜査や刑事裁判は冤罪の温床になる。多くの事件で罪のない人がぬれぎぬを着せられた。郵便制度悪用に絡む厚生労働省の文書偽造事件で、否認する被告の有罪を立証しようと大阪地検特捜部が犯した証拠改ざん事件(2010年)は、国民に衝撃を与えた。

 それらの反省から裁判員裁判などで、被告側の求める証拠が一定の範囲内で開示されるようになった。取り調べの録音・録画を一部義務化するなど刑事司法制度改革の一環である。

 虚偽自白の可能性は、再審開始が今月確定した、滋賀県の病院での「呼吸器外し」事件でも裁判所が指摘した。殺人罪で服役した元看護助手西山美香さんは捜査段階では犯行を自白したが、公判で否認に転じた。

 改めて物的証拠の重要性が突き付けられている。司法改革は何より捜査の透明性と客観性を求めている。証拠は公共の財産であり、全面開示の原則を確立するのが当然ではないか。再審開始の決定が出たら、地裁段階でも速やかに再審に移る原則の構築も改めて提案したい。

 日産自動車元会長のカルロス・ゴーン被告を巡る事件は、起訴後勾留の長さから「人質司法」などと批判されている。日本型司法は、裁判所のチェック機能を含め、再び大きな転換点を迎えていると言えるだろう。

=2019/03/29付 西日本新聞朝刊=

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