シャッター街を「インスタ映え」の名所へ 多久中心部に壁画31ヵ所 県内外から見学者も

西日本新聞

シャッターアートを前に「一つ一つに家主と作家の思いが詰まっている」と話す富永邦久さん 拡大

シャッターアートを前に「一つ一つに家主と作家の思いが詰まっている」と話す富永邦久さん

JR多久駅の壁に高さ6メートル、幅5メートルの壁画を制作する冨永ボンドさん 多久市の京町商店街に描かれた壁画。東京など県外から見学に訪れる人もいるという 富永邦久さん宅に描かれた「玄武」の壁画 商店のシャッターにはメルヘンチックな壁画も

 灰色のシャッター街を、日本一の壁画の町に-。多久市の中心市街地で、営業していない店舗のシャッターや商店の壁などを色鮮やかな絵画で飾る「多久市ウォールアートプロジェクト」が進んでいる。計画が始まった2015年から今月までに完成した壁画は31作品。「インスタ(写真)映えする」と県内外から見学者が訪れているといい、関係者らは「アートで町を豊かにしたい」と手応えを感じている。

 りりしい表情をした人物画、シャッター4枚分に広がる桜や紅葉の木々と青空、メルヘンチックな世界で遊ぶ女の子たち…。一見、地方にはどこにでもあるような町並みを歩けば、商店や家屋の壁に描かれた個性豊かな絵が目に飛び込んでくる。

 「壁画を見ながら町歩きを楽しめます。SNS(会員制交流サイト)やブログの口コミで広まり、東京からわざわざ見に来る人もいますよ」。当初からプロジェクトに携わる市まちづくり協議会まちなみ部会長の富永邦久さん(70)は、表情を緩ませた。

 事業は、市内で町づくり活動に取り組む一般社団法人「たく21」や同部会が15年12月から開始。きっかけとなったのは市中心部にある「京町商店街」のシャッター街化が進んだことだった。人口が減少し、店主が高齢になったり、亡くなったりして閉店する店舗も増える中、町ににぎわいを取り戻そうと企画した。

 「シャッターを開けられなくなる」「落書きのイメージが強い」。シャッターや壁に絵を描くことについて当初は住民から反発もあった。

 しかし、富永さんは「人を集められるアートの良さを知ってほしい」と、先頭に立って商店街近くで経営する「富亀和旅館」に隣接した自宅の壁を制作場所として提供。旅館の名にある亀にちなんで四神の「玄武」を描いてもらったところ「『自分の所にも』と手を挙げる人が増えました」。現在は道路を挟んで向かいの空き店舗にも朱雀(すざく)など残りの四神が描かれ、記念撮影の名所となっている。

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 壁画の制作では、シャッターや壁をキャンバスとして提供する家主との打ち合わせを重ねる。家主へは必ず希望するテーマや雰囲気を尋ね、デザインを決めてから制作に入る。「一つ一つに家主と作家、それぞれの思いが詰まっています」と富永さん。

 描き手は県内外のアーティスト。事業の中心人物で市内在住の作家、冨永ボンドさん(36)が家主の要望に合わせた制作ができる作家を探して仲介する。質の高さを保つ目的もあり、描き手はプロの作家のみ。自らも筆を執る冨永さんは「作家それぞれにファンがいる。市外からも広く人を呼び込めます」。

 完成作品を見るだけでなく、制作中の風景も魅力の一つだ。富永さん宅や周辺の四神を描いた西九州短大教授で画家の牛丸和人さん(57)は「通りすがりの人ともコミュニケーションができ、会話も弾む」と語る。車から「頑張れ」と応援してくれる人、記念に作業を手伝っていく人…。牛丸さんは「一緒に楽しんでもらうことで町を活気づけられたら」と力を込める。

 4年目を迎えた事業。最近は制作場所の提供を申し出る人や各地を訪れる見学者も増えた。家主となっている京町商店街の「深山生花店」の深山優華さん(43)は「かわいい絵を描いてもらって、参加してよかった。絵を見に来て来店する飛び込みのお客さんも増えました」とにっこり。

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 今月16日、冨永さんは商店街近くのJR多久駅で壁画制作の仕上げに取りかかっていた。「市内で100カ所の制作を目指します。アートで自慢できる町にして、多久に行ってみたいなと思う人がもっと増えてほしい」。駅の利用者や下校中の子どもたちが興味深げに見守る中、高さ6メートル、幅5メートルの壁画が完成。「日本一の壁画の町」へ向け、また一つの名所が産声を上げた。

=2019/03/28付 西日本新聞朝刊=

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