【AIのある未来へ】変わる「仕事」求められる「判断」 トロント大のアグラワル教授に聞く

西日本新聞

トロント大ロットマン経営大学院のアジェイ・アグラワル教授 拡大

トロント大ロットマン経営大学院のアジェイ・アグラワル教授

「予測マシンの世紀AIが駆動する新たな経済」の表紙(アジェイ・アグラワル、ジョシュア・ガンズ、アヴィ・ゴールドファーブ共著、小坂恵理訳、早川書房、1836円)

 今月のテーマは「人工知能(AI)×経済」。AIが経済にもたらす影響を分析し、新しいテクノロジーの活用法を考察した「予測マシンの世紀 AIが駆動する新たな経済」(早川書房)が刊行された。経済学者の視点で未来像を提示するとともに、AIと私たちの関係を考える一冊になっている。共著者の一人で、来日したカナダ・トロント大ロットマン経営大学院のアジェイ・アグラワル教授に話を聞いた。

 〈本書はAIを、需要や費用対効果などを予測する「予測マシン」と定義し、経済の基本の「予測」が高精度かつ高速に、そして安価となる時代を読み解いている。予測マシンの登場で変わる人の営みも具体的に示される〉

 -本書に関して、誰がどのような質問をしてくるのか?

 「一番多いのが政府関係者だ。AIが労働市場にどのような影響を与えるか?という内容だ。それに対し『キーワードは時間だ』と答えている。AIが、今ある仕事を代替している現実がある。と同時に、AIの活用で多くの仕事が生まれる。ただ新しい仕事が生まれる前に、失われてしまう仕事はあるだろう。両者の時間のギャップが少なければ労働市場における影響は少なくなる。一方で、新しい仕事に就く人が新しいスキルを学ぶために時間がかかることも考慮する必要がある」

 -やはりAIは人から仕事を奪うのか。

 「矛盾するかもしれないが、AIは今ある仕事を奪いつつあるし、強化しつつもある。AIを研究している経済学者から見ると、『仕事(タスク)』と『職(ジョブ)』は分けられる。AIはタスクを実行できるが、ジョブは果たせない。もしAIがメインとなるタスクを担うとすれば、その周りのタスクを今までまったく違うことをやってきた人間が担当するという考え方はできる」

 -具体的には?

 「スクールバスの運転手を例に挙げる。AIによる自動運転車が登場すると、運転手の仕事はなくなる。しかし30人もの学童を監督し、トラブルがないよう務める仕事はなくならない。そして担当者は、この仕事により集中できるようになる」

 〈アグラワル教授はAIビジネスの第一人者でもある。同大にIT戦略や科学政策を研究する「創造的破壊ラボ」を創設し、数多くの起業も支援している〉

 -若い人たちからも、よく質問を受けているという。

 「学生や若い就業者たちからは『AIの時代に、どんなスキルを身につけるべきか』と聞かれる。だれもがソフトウエア開発、統計、数学、プログラミングと答えるだろう。だが長期的にそうかというと正直分からない。AIによって予測コストが大幅に下がる中、確かに統計学は重要になってくるだろうが、それ以上に重要なのは人による『判断』だからだ」

 「コンピューターは計算機で、AI自体が何かを判断することはない。AIに何をどう予測させるかは、人間が判断して決めなければならない。そのためには情報科学、数学、統計などだけではなく、アートであったり歴史であったり、さまざまな要素を含め、判断する能力が必要になってくると考えている」

 〈アグラワル教授はAIを生かしたロボットの開発を目指す企業の共同創設者でもある〉

 -日本政府は「骨太方針」で労働生産性の向上にAIの導入をうたっている。AIは日本経済のイノベーションになり得るか?

 「私見だがAIの導入で日本が経済、ビジネスの大きな成長を遂げることは可能だと考える。自動車業界が代表例だ。この業界ではAIを使ったさまざまなことを行い、変革のビジョンを明確に打ち出している。車だけでなく、車を取り巻くさまざまなシステムに対しても知性のあるロボットの導入を計画している。AI自体はロボットをよりよく稼働させるためさまざまなことができる。日本はロボットの生産、活用でワールドリーダーだ」

 「日本では、人間に近い形をしたロボットがさまざまな場所で活躍している。日本には欧米や中国よりも、ロボットを受け入れる文化的土壌がすでにあることを示している。このことは海外を含めた投資家や起業家などにとって大きな魅力となるだろう」

 -最後に新聞とAIの今後の関係を予測してほしい。

 「ご存じの通り、スポーツの成績や企業決算などAIが記事を書いているケースはある。ただAIはライターより、エディターの方が向いているだろう。例えば二つの記事を比較し、どちらの記事が読者に必要かを決める役割を果たせるようになる」

 「新聞業界も、ほかの業界と変わらないと思う。よい記事を低いコストで提供できるかが生き残りの鍵だろう。個人的意見だが、20年前にインターネットが普及したとき行ったチャレンジを、AIの時代にも試みていただきたい。この新しいテクノロジーを無視することがあれば、生き残りに苦慮することにもなりかねないと考えるからだ」

=2019/03/31付 西日本新聞朝刊=

PR

最新記事

PR

注目のテーマ