初夏

 初夏、産卵のために筑後川をさかのぼるカタクチイワシ科の魚「エツ」には不思議な伝説がある。その昔、旅の僧侶が渡し賃を持たず、筑後川を渡れずに困っていたところ、川辺の貧しい漁師が対岸まで送り届けた。お礼にと僧侶が川に投げ込んだヨシの葉がエツに姿を変えたという。僧侶は弘法大師だった。

 エツ漁解禁日の5月1日は筑後川の下流で船に乗り、流し刺し網漁を撮影するのが常だ。最盛期に100トン以上あった漁獲量は近年低迷。九州豪雨があった2017年は4・7トン(福岡県大川市での漁獲分)まで落ち込んだ。昨年は多少回復し、今年も期待ができそうだという。

 エツは小骨が多いが淡泊で刺し身や唐揚げ、天ぷらと何にでも合い、口にすると初夏の訪れを実感する。傷みは早く、地元以外ではめったに口にできない。漁期は7月20日まで。ぜひ、筑後川の下流域を訪れて繊細な味を楽しんでほしい。 (床波昌雄)

=2019/04/11付 西日本新聞朝刊=

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