最高額の紙幣に描かれる肖像画は、その国の「顔」だ…

 最高額の紙幣に描かれる肖像画は、その国の「顔」だ。誰もがよく知っている人物が選ばれる。1958年に誕生した1万円札は、初代が聖徳太子、84年から2代目の福沢諭吉に

▼それぞれに名を聞けば浮かぶキャッチフレーズがある。聖徳太子は十七条憲法の一節「和をもって貴しとなす」。福沢は「天は人の上に人を造らず 人の下に人を造らず」

▼3代目が実業家、渋沢栄一に決まった。「日本資本主義の父」と言われても、ピンとこない人がいるかもしれない。両先輩に比べて知名度はいまひとつか

▼だが、渋沢がいなければ、明治日本の発展はずいぶん遅れたに違いない。日本初の商業銀行や、製紙、紡績、郵船、保険、鉄道など約500社の起業や経営に携わった。その多くは今も大企業として日本を支えている

▼功績は経済、産業だけにとどまらない。日本赤十字社や一橋大学の創設など社会福祉や教育の分野でも尽力した。財閥をつくらなかった渋沢を象徴するキャッチフレーズはこれだろう。「私利を追わず公益を図る」。希代の実業家が生涯、貫いた理念だ

▼さて、昨今の実業界を見渡せば。巨額の私利を追い求めたとされる自動車会社前会長の事件をはじめ、検査偽装や不正経理など、目先の利益を追って公益を損なう不祥事が相次ぐ。新1万円札が発行されたら、経営者はじっと肖像画を見るといい。渋沢の視線に恥じるところはないか。

=2019/04/11付 西日本新聞朝刊=

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