【日日是好日】己を信じることの大切さ 羅漢寺住職 太田英華

西日本新聞

 今年も元気なサッカー選手たちがやって来ました。大分トリニータジュニアのメンバー、県北中学生約50人です。アカデミーの先生とのご縁で始まった、坐禅(ざぜん)体験を組み込んだ春休みの合宿は、今年で4年目。先輩の選手は、すっかりお兄さんになっておりました。

 今年は1泊2日の貴重なスケジュールの中で、2日間の早朝坐禅に取り組みます。通常坐禅中は考えないことに徹するのですが、トリニータの選手に関しては、あえて特別なテーマで自分を見つめてもらいます。

 今年のテーマは「信じる」です。「あなたは何を信じていますか」。坐禅は慣れないと足が痛くなりますが、一生懸命にテーマと向き合い坐(すわ)ります。

 1日目が無事に終わり、迎えた2日目。ある選手が私に言いました。「今朝は体調が悪いのですが、どうしたらよいですか」。私が「きつかったら休んでもいいですよ。やれるならやってみて、途中で気分が悪くなったら手を挙げて教えてください」と言いますと、彼は「はい」と言って昨日と同じ場所に坐りました。

 私は体調の悪い選手を気にして歩きながら、坐っている選手の状態を確認しました。すると、体の小さい選手の1人が、顔をしかめながら、腰が痛そうにしていました。「痛かったら足を組むのをやめて、楽な姿勢にしていいですよ」と告げますと、「はい」と足を崩しました。

 それでも痛そうな顔をしていたので、「耐えられなかったらやめていいですよ」と促しましたが、うなずきはするもののその場を離れませんでした。

 最終残り5分を告げると、それまで動いていた選手も集中し始めました。体調が悪いと言った選手も最後まで坐りました。腰を痛そうにしていた選手も、最後はきちんと足を組み直しました。

 坐禅が終わり彼らに改めて問いかけました。「あなたは何を信じますか」。数人の選手が「先生、友人を信じます」「両親を信じます」「仲間を信じ、自分を信じます」と返してきました。

 「人と比べず、少しの努力をすればよい」。これは、イチロー選手の言葉で、サッカー少年たちの到着に合わせ掲示板に書かせていただきました。イチロー選手にとっての野球は、人間力を高める手段だといいます。「少しの努力」の「少し」は、自分をよく理解し、自分を信じているから分かることでしょう。

 私は少年たちに言いました。「サッカーを信じ、そして人間力を信じて生きてください。人間力とは、判断力や感覚、人間の底力のことであると思います」。来年の再会を誓い、元気に山を降りていく彼らを見送ると、ふと感動の涙が出ました。

 私と一緒に過ごす時間を信じてくれてありがとう。素直に今を「信じる」彼らに、私の方が大きな学びと感動を頂き、時間を共有させていただいたことに改めて感謝致しました。

【略歴】1967年、羅漢寺27世住職の娘として生まれる。高校卒業後、大学進学のため上京。20代半ばから40歳で出家するまでフラメンコダンサーとして活動。出家後、愛知県の尼僧専門修行道場で約5年間、僧堂修行し、2013年3月に帰山。現在、羅漢寺28世住職として寺を守る。

=2019/04/14付 西日本新聞朝刊=