WTO逆転敗訴 食の「安全」訴え粘り強く

西日本新聞

 東京電力福島第1原発事故の後、韓国が続けている福島など8県産の水産物の輸入禁止措置について、世界貿易機関(WTO)の上級委員会は、韓国の規制を不当として是正を勧告した「一審」判断を破棄し、日本の事実上の逆転敗訴が確定した。

 WTOの紛争処理手続きを利用して韓国に禁輸措置の緩和・撤廃を求め、他の国や地域にも働き掛けを強める戦略だった日本にとっては想定外の事態となった。負けるはずがない-といった慢心が日本になかったか。敗訴した原因の徹底的な分析が急務だ。その上で韓国などに対し、科学的根拠に基づき日本の食品の安全性を訴え、規制の緩和・撤廃を粘り強く働き掛けていく必要がある。

 韓国が輸入を禁止しているのは、青森から千葉まで太平洋沿岸の6県産と群馬、栃木両県産の水産物。日本政府は「不当な差別」で「必要以上に貿易制限的」だとして、このうちマイワシ、マサバ、アワビ、マボヤなど28魚種の禁輸解除を求め2015年にWTOに提訴した。

 「一審」に当たる紛争処理小委員会(パネル)は昨年2月、日本の主張をほぼ認める報告書を公表した。これを不服とした韓国が「二審」に当たる上級委に上訴し、対抗して日本も上訴した。上級委では、両国が意見書や聴聞を通してそれぞれの主張を展開した。

 上級委は報告書で、「原発事故がない通常環境の放射能水準」「達成可能な最低限の放射能水準」を目指すとした韓国の主張について、パネルでの検討が不十分だと指摘し、韓国への是正勧告を取り消した。

 本来はパネルに差し戻して再検討を促すべきだが、WTOの紛争処理手続きに差し戻しはない。妥当性について十分な分析が行われないまま、韓国の措置禁輸が続くことになる。

 日本は食品中の放射性物質について厳格な基準を設けている。東日本の太平洋沿岸で取れた水産物についても、これを満たさないものは流通しない仕組みになっている。こうした取り組みの妥当性や実効性はパネルで認められ、その判断は上級委でも維持された。政府は「日本が敗訴したとの指摘は当たらない」(菅義偉官房長官)との見解を示す。確かに上級委の報告書は、日本の食品の安全性に疑問を投げ掛ける内容ではない。

 ただ、韓国との2国間協議が不調に終わり、WTOの場で紛争解決を目指した日本が敗れたのは事実だ。日本は規制の緩和・撤廃を図る貴重な手段を失った。原発事故の適正な処理と併せて、食の安全について、徹底した取り組みと積極的な情報発信を続けていくほかはない。

=2019/04/16付 西日本新聞朝刊=