再審法制の整備こそ 中島 邦之

西日本新聞

 柄にもなく、六法全書をめくる。

 刑事司法の手続きなどを定めた刑事訴訟法は507の条文のうち、再審(やり直しの裁判)に関する規定は、わずか19。審理をどう進めるかは445条に「必要なら事実の取り調べができる」という趣旨の記載があるだけ。1979年に鹿児島県で起きた大崎事件再審弁護団の鴨志田祐美弁護士が指摘する通りだ。彼女は「証拠開示や証人尋問の規定さえない、現行法の不備を知ってほしい」と訴える。

 その結果、何が起きているのか-。証拠開示を検察側に勧告するよう弁護側が求めても、裁判官は何もしなくてもすむ。無罪方向の証拠が捜査機関に眠ったまま、裁判所は審理を尽くさず、再審請求を退けることが可能だ。

 真実究明に熱心な裁判官に当たらない限り、再審への道は閉ざされる。つまり、冤罪(えんざい)からの救済は裁判官のさじ加減次第。各地の再審弁護団は、これを「再審格差」と呼ぶ。

 平成最後の年度末、この不条理に憤る九州の弁護士たちの声を聞いた。

 85年に起きた松橋(まつばせ)事件で熊本地裁が3月28日、殺人罪などで服役した宮田浩喜さんに再審無罪を言い渡した。弁護団の武村二三夫弁護士は「事件発生から34年。ようやく冤罪が晴れた。今後は、証拠の全面開示など再審制度改革を目指したい」と意気込んだ。

 この事件では再審開始決定が2度出たが、検察側が抗告し、正式に決まるまで2年超かかった。武村氏は制度改革の柱に「検察官の上訴権制限」も挙げた。いったん再審開始決定が出れば、あとは公開の法廷(再審公判)で決着をつけようという主張である。

 その2日前に福岡市であった法学者らによる勉強会。飯塚事件弁護団の徳田靖之弁護士は「戦後、再審法制見直しの声が私たちの間で起きなかった問題が今、痛切に問われている」と自己批判。再審請求審が非公開である点などに加え、証拠開示規定の不備を見直しの論点とした。

 通常の裁判では、裁判員裁判の導入に向けて一定の証拠開示が制度化されたが、再審請求審は適用外。2016年の刑訴法改正でも、法制化は見送られた。被告人と検察官が主体的に主張・反論して手続きを進める通常審と、裁判所が主導的に審理を進める再審では、裁判の構造が違うことなどが理由とされた。

 だが、どんな理由を掲げても、見るべき証拠を見ないまま冤罪の可能性を放置することが許されていいはずはない。そんな不正義がまかり通ってきた現実を広く知ってほしい。 (社会部編集委員)

=2019/04/16付 西日本新聞朝刊=