巨大な円花窓、凝った装飾の柱廊、どっしりとした塔、多くの彫刻…

西日本新聞

 巨大な円花窓、凝った装飾の柱廊、どっしりとした塔、多くの彫刻。細部まで力強く調和した「石造りの交響楽」である。フランスの文豪ユゴーは、小説「ノートルダム・ド・パリ」でこう描写した。パリの象徴、ノートルダム寺院である

▼醜い鐘つき男カジモドが、美しい踊り子に恋をする物語。アニメ映画やミュージカルにもなったので、ご存じの方も多かろう

▼その世界で最も有名な大聖堂の屋根から猛烈な炎が上がり、尖塔(せんとう)が焼け落ちるニュース映像に息をのんだ。大規模な崩壊は免れたというが、あのうっとりするほど美しい円花窓(バラ窓)は無事だろうか。筆者がこっそりカジモドと呼んでいた屋上の彼は-

▼パリ支局時代、何度となく同寺院の塔に上った。ユゴーも絶賛したパリ市街の絶景だけでなく、屋根に並ぶ石の彫刻群に心引かれた。本来の役割は雨どいなのだが、恐ろしげな怪物や動物の姿をしている

▼その中に、両手をほおに当て寂しげに遠くを見る怪物が。外見の醜さを人々に嫌われ、寺院に隠れ住みながら、純粋な心を失わなかったカジモドにどこか重なった

▼寺院はこれまでも革命や暴動で被害を受けた。今回は失火の疑いがあるという。世界のどこだろうと、人類の財産が人災で失われてはならない。ユゴーは貴重な建築物が損なわれることを嘆いて言った。「時は無分別だが、人は愚かだ」。愚行や過失は怪物より恐ろしい。

=2019/04/17付 西日本新聞朝刊=

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