投票率 上位と下位の自治体を訪ねてみた 「1票の重み」 窮屈さと楽しさと 熊本・産山村、福岡・粕屋町

西日本新聞

草原が広がる熊本県産山村。民家は点在しているが、投票率は9割以上と高い 拡大

草原が広がる熊本県産山村。民家は点在しているが、投票率は9割以上と高い

福岡県粕屋町の駅周辺。通勤通学に便利でマンションが林立、住民は増えているが投票率は低い

 九州233市町村に昨年末まで、直近の議員選の投票率をアンケートしてみると、90%超から40%弱まで50ポイント以上の開きがあった。上位、下位各10自治体を見ると、上位は山村や離島の町がずらりと並び、下位は北九州市や福岡市、その近隣の自治体が多い。おなじみのデータだが、実情はどうなのだろう。数字の背景を探ろうと、上位と下位の自治体を訪ねてみた。

 「2007年の村議選で私が選挙カーを走らせると、36年ぶりと話題になったぐらいですよ」。山深い熊本県産山(うぶやま)村。21日投開票の村議選に立候補している候補者の一人が一見のんびりした選挙の雰囲気を笑いながら語った。

 だが、村を挙げての一大行事に違いはない。前回村議選の投票率は91・23%。人口約1500人の過疎の村で、多くの有権者は地縁や血縁を基準に投票してきた。知名度を上げる宣伝活動の必要はなく、告示日直前に出馬表明する人もいる。

 村長選に立候補したこともある男性(70)は「親類が多いほど選挙に有利」と正直に話す。「村全体が知り合い」みたいな雰囲気の中で、より関係の深い人を選ぶ。こうした選挙について、50代の村民は冷ややかな視線を向ける。「政策とは関係なく、議員が選ばれている」

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 「そうでもない」と反論したのは村外からの移住者だった。豊かな自然の中での生活に憧れ、ここ3年だけでも40人が移り住んだ。

 無人飛行機ドローンによる撮影を手掛ける会社の経営者、石川勝敏さん(46)は5年前に東京から引っ越してきた。地元村議が自宅を訪ねてきたので驚いた。世間話をする中で地域の実情が分かり、議員の仕事内容も把握できた。東京では経験したことのない議員との距離感だった。祭りの宴会では議員も一村民として杯を交わす。「村全体を見渡せるようになった」。村政が身近だと実感する。

 貸しコテージを営む小川宏明さん(49)も東京からの移住者。数万票が入る都市部とは異なり、村では数票で当落が分かれる選挙を見てきた。「自分の1票が結果を左右する」。その実感が楽しくもある。

 今回の村議選も定数8に9人が立候補する。12年前の選挙では最下位当選者と次点の差はわずか4票だった。「投票に行ったかどうか、ばれますもんね」と苦笑いする。

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 「行っても何も変わらない」。福岡県粕屋町の公園で子どもを遊ばせていた母親は投票に行かない理由をこう語った。

 鉄道、マンション、工場…。産山村とは全く違う環境が広がる粕屋町。投票率が低く、2年前の町議選は39・34%だった。女性は町立幼稚園の保育期間を2年から3年にしてほしかった。「でも、うちの子はもう間に合わない。いつまで住むかも分からないしね…」

 福岡市のベッドタウンでもある粕屋町。交通の利便性が高く、約4万8千人まで人口が膨らみ続け、30~40代が全体の3割を超える。投票に行く人が多い65歳以上の高齢者は2割に満たない。転出入は昨年だけで人口の1割以上になるほど出入りも激しい。町になじむ時間がなければ、町政や町議会にも目が向きにくい。

 古くからの住民は一体感があり、地域を挙げて議員を応援する。「特定の支持層や地域が議員を輩出し続ける。排除されていると感じる新住民がいる」。議員の一人はぼやく。

 そんな町の中で、ちょっとした変化があった。2年前、町が公立保育所2園を民営化する方針を打ち出すと、反発した保護者がわずか2カ月余りで9千人以上の反対署名を集めた。議会に出した請願は、賛成多数で採択された。

 「住民の力で良い街にできると実感した人もいたのでは」と別の町議。「そう思う人が増えれば、投票率も上がるかもしれない。封印している思いを聞く耳を持たねば。まだまだ自分たちのアプローチが弱い」と反省する。

 超高齢化、子どもの貧困、防災…。さまざまな課題が地域に横たわる。有権者から地方政治へのアプローチも欠かせない。投票はその一歩である。

=2019/04/17付 西日本新聞夕刊=