【とまり木どこに】学校編(番外)医ケアの線引き 見直しも必要 森孝一・福岡市立今津特別支援学校校長に聞く

西日本新聞

 連載「とまり木どこに・学校編」では、主に福岡市の特別支援学校を舞台に、医療的なケア(医ケア)が必要な子どもが親から自立して学べる学校環境の課題を探った。市教育委員会で支援学校を所管する発達教育センターの前所長で、市立今津特別支援学校校長の森孝一さん(60)に、今後の「改善点」を聞いた。

 -学校看護師が医ケアに対応し、親が終日、学校に付き添うことはほとんどなくなった。特に今津は、看護師ができるだけ親の意向に沿うよう、細かく取り組んでくれると評判だ。

 夜も眠らずにわが子の医ケアに携わっている保護者がいる。学校でも待機となれば保護者自身が健康を損なってしまう。身体的、精神的な負担を軽減するため、できる限りの対応をしてきたつもりだ。

 -校外学習や宿泊を伴う学習はまだ親の付き添いが原則、必須となってい

 市教委の規定では遠出の校外学習には看護師が対応できず、保護者に付き添ってもらっている。付き添えない場合はやむなく欠席となり、必要な学習の機会が失われる。看護師の就業要綱の見直し、旅費や校内に残る代替看護師の確保など課題は少なくないが、解決に取り組んでいかなくてはならない。

 一方で泊まりを伴う修学旅行などについては、看護師は現状では学校での日中の様子しか知らず、夜間は特に配慮が必要な子どももいる。日帰りの校外学習とは区別し、次の段階の課題だと考えている

 -医ケアの担い手として看護師は学校現場だけではなく需要が高い。責任も重い半面、嘱託としての身分では待遇も十分ではなく、途中で辞める人もいる。

 市立の各特別支援学校には必要に応じて学校看護師が配置されることになっており、現在、安全で円滑な医ケアが実施できていると思う。ただ今後、医ケア児がどれだけ増えるか、また校外学習での対応も考慮すると、市教委との個別の契約ではなく、医療機関や訪問看護ステーションに委託するなど、安定的に確保する対策は必要だ

 -わが子の周りに医ケアができる教員も増えれば親にとっては心強いが、なかなか増えていない。市教委は当初、教員への法定研修(3号研修)のうち、知識などを学ぶ基本研修や、口の中のたん吸引の実地研修は「全員必修」が望ましいとの方針を掲げていたが。

 研修を実際に始めてみると、保護者からの実施依頼が少なく、一度に多くの教員に受講してもらう態勢もできていないことなどから、かなり限定的になったことは否めない。現実的には当面、3号研修の枠組みとは別に、各学校で教員全員を対象に、医ケアに関する基礎的なことを学ぶ校内研修を充実させることが望ましい

 -市教委は教員が可能な医ケアのうち、文部科学省が認めているにもかかわらず、気管切開している子どもの喉の管(カニューレ)からのたん吸引は除外している。結果的に、気管切開していると、教員に医ケアを頼みにくい状況だ。

 教員への研修を始めるに当たり、医者や弁護士など専門家の意見を尊重し、「医療事故の危険性が少ない」とされる手技に限定した経緯がある。今後、必要に応じて見直すことは可能だと考えている

 -スクールバス内で医ケアの対応はないが、親が送迎するにしても車内での医ケアは「安全」ではない。福祉サービスと組み合わせるなどして、スクールバスの代替機能を早急に検討すべきではないか。

 揺れる車中では大きなリスクを伴うため、吸引が必要な子どもがスクールバスを利用するのは難しく、保護者に送迎をお願いするケースが多い。一方、さまざまな事情で自家用車での送迎が困難な保護者もおり、その負担が大きいことも理解している。例えば看護師が付き添う形で、介護タクシーを活用して通学する事業を立ち上げるなどの対策も必要だろう

 -教育委員会や学校の判断に伴い、看護師らが対応する医ケアの内容が制限されるなど、子どもが自立して学べる環境に地域差が出ている。

 医ケアは子どもの命と直結する。学校として「安全第一」を考えて慎重になるのは当然であり「線引き」もある程度は仕方がない。ただ同じ手技でも、子どもによってどこまで安全かは個人差があり、その「基準」も一律ではない。一人一人の学習機会が損なわれないよう、指導医の意見を踏まえながら丁寧に個別に判断していくことが求められる。学校の態勢などを勘案し、そうした「地域ルール」も定期的に見直し、再検討していくことも必要だ

 ▼もり・こういち 北九州市、福岡市の小学校、特別支援学校に勤務後、特別支援教育を中心に福岡市の教育行政に携わる。福岡市教育委員会発達教育センター所長を5年務めた。特別支援学校の校長は2校目で、本年度は通算5年目。特別支援学校の防災機能や防災教育の充実を目指し、各地での講演活動などにも取り組む。

=2019/04/18付 西日本新聞朝刊=

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