なぜ?同意ない性行為に続く「無罪」判決 「故意立証」の高いハードル…刑事司法の限界、指摘も

西日本新聞

刑法38条には、過失犯の規定がある場合を除き「罪を犯す意思がない行為は、罰しない」とある 拡大

刑法38条には、過失犯の規定がある場合を除き「罪を犯す意思がない行為は、罰しない」とある

 性犯罪を巡る裁判で最近、無罪判決が相次いだ。判決は、被害女性が抵抗できない状態にあったことや、意に反した行為であったことは認めながら、被告の男性にはその認識がなかった、と故意を否定し罪に問わなかった。どんな事情があったのか。

 スノーボードサークルの飲み会で、泥酔した20代女性に乱暴したとして、準強姦(ごうかん)罪に問われた40代の男性に対する裁判。福岡地裁久留米支部は3月12日、無罪を言い渡した。

 判決は、女性が飲酒の影響で抵抗できない状態であったことは認めた。

 一方で、女性が目を開けて声を発したり、性交のしばらく後、別の男性から胸を触られて大声を出して手を振り払ったりしていた点を重視。被告からすれば「意識がある」と思える状態だったと判断した。サークルでは度々わいせつな行為が行われ「(女性が)許容していると誤信し得るような状況にあった」とも指摘。女性が飲み会に参加したのは初めてで「少なくとも本件のような状況で性交することを許容していたとは考えられない」と認める一方、泥酔状態に付け入って性行為に及んだ「故意」は認められないとした。

 「故意がない行為は罰しない」のが刑法の原則。それでも女性協同法律事務所(福岡市)の松浦恭子弁護士は「抵抗できなくなるほど酔っていることを認めておきながら、それを認識できなかったという裁判所の認定には無理がある」と首をひねる。

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 被害女性が「頭が真っ白」になり抵抗できなかったことから、被告の故意を否定したのは同19日の静岡地裁浜松支部の無罪判決。

 実の娘に対する準強制性交罪に問われた父親について、名古屋地裁岡崎支部は同26日、性的虐待を認定する一方、性交を拒めていた時期もあったなどとし「抵抗不能な状態だったとはいえない」と無罪にした。

 被害者が激しく抵抗し、それを抑え込む暴行・脅迫がなければ被告の「故意」は認められにくいのが刑事司法の現実だ。しかし性被害者が驚きや恐怖で凍り付き、抵抗できない例は珍しくない。

 かつて、物議を醸した判決があった。

 鹿児島県でゴルフ教室を主宰する男性が指導を口実に、当時18歳の教え子をホテルに連れ込み準強姦罪に問われた事件。2014年、福岡高裁宮崎支部の控訴審判決は、信頼していた男性の行為に少女は混乱し抵抗できなかったと認める一方「(男性は)弱者の心理を理解する共感性に乏しく、無神経の部類に入る」などとして故意を否定。無罪判決は最高裁で確定した。

 加害者が無神経なら無罪放免か-。性被害当事者らの団体「Spring」代表理事の山本潤さんは「被害者の心理や状態を理解していない判決が多すぎる」と強い疑問を投げ掛ける。

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 「刑法では有罪にできないということで、行為にお墨付きを与えたわけではない」。福岡地裁の裁判長は14年、別の準強姦事件で無罪判決言い渡しの後、こう言い添えた。鹿児島のゴルフ教室の事件は、16年に民事訴訟で被害者の精神的苦痛に対し330万円を賠償するよう男性に命じる判決が出された。

 加害者が刑法では処罰されないだけで被害者は厳然と存在する。そうした現実があるならば「過失」で罪に問えるよう法改正すべきだとの意見や、「暴行・脅迫」の要件を撤廃し「同意なき性交は犯罪」とすべきだという声も上がる。

 ただ刑罰には国家が人の権利を奪うという性格があり、現状でも「暴行・脅迫の程度をかなり広く認めている」との声や、冤罪(えんざい)に対する懸念から、専門家には慎重な見方が根強い。

 甲南大法科大学院の園田寿教授(刑法)は「今の刑事司法の枠組みでも故意の有無を丁寧に吟味することで、より世間の感覚に近い判決にすることは可能だ。同意があったと主張するなら、そう信じた根拠・相当の理由を具体的行動などから被告人側が証明すべきだ」と話す。性犯罪を厳罰化した17年施行の改正刑法は、3年後の来年をめどに必要な見直しが行われる見通しだ。

【ワードBOX】強制性交罪

 暴行や脅迫を用いて性交をする罪。暴行・脅迫の程度は判例により「抵抗を著しく困難にする程度」とされている。酒や薬物で意識がもうろうとするなど、抵抗できないことに乗じた性交には準強制性交罪が適用される。2017年の刑法改正で強姦罪、準強姦罪からそれぞれ名称を変更した。女性に限っていた被害対象の性別制限はなくなり、口腔性交なども加えられ、法定刑の下限を懲役3年から5年に引き上げた。

=2019/04/21付 西日本新聞朝刊=