フォーク編<419>村下孝蔵(1)

西日本新聞

数々の名曲を生み出した村下孝蔵 拡大

数々の名曲を生み出した村下孝蔵

 熊本県水俣市出身のシンガー・ソングライター、村下孝蔵がリハーサル中に倒れて急逝するのは1999年である。46歳だった。

 村下は1980年、「月あかり」でデビュー、5枚目のシングル「初恋」(83年)のヒットで一躍、人気シンガーに仲間入りした。

 〈五月雨は緑色 悲しくさせたよ 一人の午後は 恋をして淋(さび)しくて 届かぬ想(おも)いを暖めていた 好きだよと言えずに 初恋は ふりこ細工の心〉

 「五月雨は緑色」「初恋はふりこ細工」といった比喩にみずみずしい村下の詩心が表現されている。

 「初恋」の半年後に発売された6枚目のシングル「踊り子」もまた、歌い継がれている。

 〈つまさきで立ったまま 君を愛してきた 南向きの窓から 見ていた空が 踊り出す くるくると…〉

 「つまさきで立ったまま」。聴き手を揺さぶるフレーズだ。透明感のある歌声と合わせ、「初恋」「踊り子」などは抒情(じょじょう)派フォーク、青春ソングとしては色あせることのない不朽の名作ともいえる。

   ×    ×

 熊本県水俣市の中心街に商店街「初恋通り」がある。全長333メートルの両側には約30の店が並んでいる。元の名称は「ふれあい一番街商店会通り」。2013年に、村下の顕彰と商店街振興のために「初恋通り」の愛称になった。

 「週末には村下さんの曲を流しています。今でも時々、村下ファンの方々がお見えになります」

 通りの一角にある喫茶店「トム・ソーヤ」の古田敏子は、村下と一緒に映った写真を見せながら言った。

 この通りを取材で訪ねた日は年1回の春祭りの最中で、出店が並び、にぎわっていた。その一つの出店の裏に「初恋」の歌碑が見えた。

 歌碑は縦90センチ、横1・6メートル。「初恋」の歌詞が刻まれている。歌碑には「初恋」のジャケットに使用された切り絵のデザインがあしらわれている。そのデザインは「トム・ソーヤ」の店の名刺だけでなく、商店街のポスターにも使用されていた。死後20年、今でも村下は故郷の街で息づいている。1995年の福岡市でのライブの中で九州人であることを語っている。

 「(ここは)九州ですし、訛(なま)りやイントネーションが通じる」

 水俣市、北九州市、広島市、そして東京。村下は舞台を移しながら踊り続けた。つまさき立ちの恋だけでなく、つまさき立ちの人生でもあった。 =敬称略

 (田代俊一郎)

=2019/04/22付 西日本新聞夕刊=

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