【次代へ 平成から令和】事故なき車社会へ道筋は 自動運転拭えぬ不安 厳罰化実らせた遺族ら

西日本新聞

飲酒運転のひき逃げ事故で亡くなった次男隆陸さんの遺影に手を合わせる佐藤悦子さん=10日、大分県国東市 拡大

飲酒運転のひき逃げ事故で亡くなった次男隆陸さんの遺影に手を合わせる佐藤悦子さん=10日、大分県国東市

自動運転について語る作家堂場瞬一さん=15日、東京都内

 自動運転実験車「ABオート」は、熟練のドライバーがハンドルを握っているようにスムーズに走る。前を走る車との距離を一定に保ち、制限速度を守り、右折するためにレーンチェンジする--完全自動運転の実験なので、運転席に人はいない。

 自動運転をテーマにした小説「犬の報酬」(中央公論新社、2017年)の一場面である。車好きという著者の堂場瞬一さん(55)は、執筆を思い立った4年ほど前、「ものすごく快適な車社会がまもなく到来する」と期待したという。

 歴史的な変革は目前に迫っている。政府は20年をめどに全操作を自動システムが行って緊急時だけドライバーが対応する「レベル3」、25年ごろにはドライバーが運転に関与しない「レベル4」の実用化を掲げる。

 まるでSF映画のようだが、課題は多い。技術開発、ハッキングによる暴走、法制度の整備、事故時の刑事責任の明確化…。堂場さんは「ハードルは高く、簡単にはいかない。いまだにどんな車社会になるか想像できない」と話す。

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 自動運転導入の狙いの一つは、人為的ミスを減らし交通事故を減らすことだ。

 平成元年の1989年当時は、「第2次交通戦争」と呼ばれ、毎年1万人以上が命を落とした。30年ほどたった2018年の事故死者数は3532人。激減した背景には、悪質な運転への厳罰化が挙げられる。

 「今の法律ではどうにもできない。署名活動して法律を変えなさい」

 03年に起きた飲酒運転のひき逃げ事故で次男隆陸さん=当時(24)=を亡くした大分県国東市の佐藤悦子さん(67)は、裁判の途中で面会した担当検事の突き放すような言葉を鮮明に覚えている。酔いを覚まして出頭した加害者は業務上過失致死などの罪で起訴され、判決は「たったの懲役3年」だった。

 事故遺族の全国連絡協議会を05年に立ち上げ、厳罰化を求める署名活動を始めた。06年には福岡市東区で3児が犠牲となった飲酒運転事故が発生して大きなうねりとなり、計60万3千人分の署名が集まった。

 活動が実り、罰則を強化した自動車運転死傷行為処罰法が14年に施行された。相次ぐ事故を受けて道交法も改正され、飲酒運転の罰則が引き上げられた。

 「厳罰化されたからこそ悪質運転は犯罪だと多くの人に浸透し、飲酒運転を許さない社会になった」。それでも根絶されたわけではない。近年は悪質なあおり運転や高齢者の運転ミスによる悲惨な事故も目立つ。「気を緩めることはできない」と佐藤さんは言う。

 一方、交通事故に詳しい高山俊吉弁護士(78)は「厳罰化には一定の効果はあった」と認めつつ、「運転手の責任が強調され、道路の安全性など事故を招いた他の要因の追及がおろそかになった」と指摘する。

 自動運転については、手厳しい。「海外との競争、産業振興を重視し、導入ありきで進んでいる。技術的な不安は非常に大きい」

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 小説「犬の報酬」では、自動運転車が自転車に乗っていた小学生の女児をはねる死亡事故を起こし、自動車メーカーの責任が追及される。自動運転導入に反対ではない堂場さんも「車だけが自動で動いても、道路は歩行者や自転車が動くし、手動で運転する車も入り交じって走る。かえって事故が増えそうで怖い」。

 実際、米国では18年3月、自動運転車の自動ブレーキが作動せず、公道で自転車を押して渡っていた歩行者がはねられ、死亡した。日本でも、公道走行実験中に自損事故が起きている。

 事故なき車社会は実現するのか。遺族の心境は複雑だ。佐藤さんは願う。「息子の命と引き換えに生まれた法律が生かされず、事故が増えるような未来は訪れてほしくない」

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【ワードBOX】平成の交通事故

 全国の交通事故による死者数は1970年の1万6765人をピーク(第1次交通戦争)に減少していたが、自動車の普及や運転免許保有者の増加を背景に88年から再び1万人を超え、92年には1万1452人(第2次交通戦争)に上った。その後、初心運転者への教育強化などの対策によって減少している。飲酒死亡事故件数も昨年は198件にとどまり、20年前に比べて7分の1に減った。一方、近年は悪質なあおり運転が目立ち、昨年の高速道路での道交法違反(車間距離不保持)の摘発数は1万1793件と、前年から倍増した。

=2019/04/23付 西日本新聞朝刊=