「泡沫ヒーロー」の選挙 四宮 淳平

西日本新聞

「選挙カーを使わない」というたすきを掛け、選挙区の福岡市城南区を1人で歩く崎村俊洋さん 拡大

「選挙カーを使わない」というたすきを掛け、選挙区の福岡市城南区を1人で歩く崎村俊洋さん

福岡市議選で城南区の掲示板に貼られたポスター

 選挙に出ても、まず当選しないとみられる、いわゆる泡沫(ほうまつ)候補。先の福岡市議選で城南区から立候補した「ヒーロー」も、その一人だった。

 掲示板のポスターは、マスクをかぶりコスチューム姿でポーズを決めていた。人柄や性格は想像しにくい。これでは完全にマイナス-。素人目にはそう思えるがヒーローには計算があった。

 「選挙に行ってね。でも俺に入れなくていいから。よく考えて選んで」。福岡大近くの歩道を1人で歩きながら、学生にそう話し掛けていた。必ずしも当選だけを目指していたわけではなかったのだ。

 真の目的は投票率アップだという。ちまたで選挙の話題が出やすくなるだけでなく、「あの人を当選させたくない」という、逆バネが投票に結びつくという分析だった。

 崎村俊洋さん(36)、アルバイトの保育士だ。製麺所、印刷所、新聞配達などさまざまな職を経験すると同時に、「特撮ヒーローへの憧れを爆発」させ、5年前からヒーローの装いで交通安全運動などに汗を流してきた。

 選挙は行かないのが当然という周囲の声に、崎村さんは危機感を抱く。「政治の話題といえばメディアが自民党の国会議員をたたくばっかり。福岡市議選の投票率は4割ほどで“最大民意”は選挙に行かない層。世論からかけ離れた結果になっている」

 無関心層に訴えるには従来の手法は通じないと考えた。選挙カーも後援会も無し。1人で街を歩きながら人々に投票を呼び掛けた。

 結果、城南区の投票率は4年前の前回より2・38ポイント増の45・02%。僅差だが、市全体の伸び率(1・20ポイント増)も、投票率(42・01%)も上回った。得票は11人中最下位の846票だったが、供託金50万円は没収されずに済んだ。本人は「大金星」と受け止めて「今後も投票率アップのためにできることを全力で続ける」と言い切る。

 ただ、同時に行われ、自民分裂で注目された知事選の全体投票率(42・72%)は前回比3・87ポイントの増。城南区の市議選より伸びている。申し訳ない言い方だが、ヒーローの貢献度は微妙な気がする。

 やはり市民一人一人が立ち上がるしかない。民意とかけ離れた政治家が水面下で暗躍しても、さっそうと現れて退治してくれるヒーローはいないのだから。 (都市圏総局)

=2019/04/23付 西日本新聞朝刊=

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