広がるライフレスキュー事業 制度の趣旨や課題を聞く

西日本新聞

平田直之さん 拡大

平田直之さん

安河内達さん

 失業や病気などで貧困に陥った人を、福岡県の社会福祉法人が連携して支える「ライフレスキュー事業」。公的制度の隙間を埋める民間版のセーフティーネットとして、支援実績は年々増えている。事業で中心的な役割を果たす2人に、取り組みの趣旨や課題などを聞いた。

 ●地域資源で制度拡充を 平田 直之さん

 -ライフレスキュー事業が始まった背景は。

 「直接のきっかけは2016年4月の社会福祉法改正で、社福法人による公益的な取り組みが責務となったこと。歴史をさかのぼると、00年に介護保険制度が始まるまでは、行政が個々人の福祉サービスの内容を決める『措置制度』が運用されていた。この時代、社福法人は委託費の意味合いで行政から受け取る措置費を、目的外には使えなかった。剰余金の使途は制限され、地域課題の解決に使うのが難しかった」

 「それが介護保険制度が始まると、社福法人が公的制度のはざまで苦しむ人の支援に剰余金を充てるのを、国も徐々に認めるようになった。高齢化が進み、行政の困窮者支援に限界がきたことも要因ではないか」

 -ライフレスキューと同様の事業は全国で広がっている。福岡県の特徴は。

 「社福法人が連携する困窮者支援事業は、昨年12月時点で42都道府県に増えた。福岡の場合、市町村単位で社協を含む社福法人がネットワークをつくり、個人の課題解決に当たるため、きめ細かく対応できる。他県は県社協がひとまとめで対応する形が多く、この部分が大きく違う」

 -高齢者人口は40年にピークを迎え、社会保障制度をどう維持するか議論されている。

 「いわゆる『2040年問題』では現役世代の減少もあり、福祉サービスの維持が難しくなるといわれる。行政の福祉施策は今も介護保険が中心で、一般財源による福祉事業が弱い。公的支援の対象にならない人を支える制度外の取り組みは、ますます重要になるのではないか。福岡では17年度、ライフレスキューによる現物給付や人件費、システム整備費などの運営経費が約780万円だったが、大阪府は約1億5千万円。都市部は支援対象となる人が多く、経済的援助も増えるだろう」

 「公的制度以外の支援を拡充するには、まず社福法人が連携し、その上で株式会社や郵便局、医療機関などの地域資源を取り込んでいくしかない。実現には行政のリーダーシップが重要になる」

 ▼平田 直之さん ライフレスキュー事業の運営委員会で委員長を務める。社会福祉法人慈愛会(福岡県大刀洗町)常務理事。67歳。


 ●社会から孤立し貧困に 安河内 達さん

 -どんな人が相談支援の対象になっているか。

 「貧困世帯が中心で、困ったらどうすればいいか、どんな支援制度があるか知らない人が多い。それもあり、社会から孤立している。行政の窓口に行ける人はまだいい方。SOSを出せず、住まいにこもっているケースが目立つ」

 「子どもがいる30代の母親を支援したことがある。母子家庭で、社会福祉協議会の生活福祉資金を借りようとしたが、お金が入るまで約1週間かかった。所持金は300円ほど。疎遠だった妹に頼み込み、なんとか1万円を借りたが、すぐに使って翌日には千円ほどしか残っていなかった。よく調べると母親には知的障害があった。本人がこうした障害に気付かず、困窮に陥っていることもある」

 -貧困の背景は。

 「少子高齢化とともに、核家族化が影響しているように思う。今は隣近所の人はもちろん、親子などの身内でも相談できない例が増えている。身内がいても助けを求めるのを拒んだり、最初から頼るのを諦めていたりすることもある」

 -公的制度の問題点は。

 「例えば生活保護は、実際に支給されるまで1カ月程度かかることが多い。今日、明日の食事や宿泊先に困る人は、それでは間に合わない。そこをカバーする仕組みが必要ではないか」

 -ライフレスキューの趣旨、課題を。

 「基本は『自立したい』『生活を立て直したい』という意思のある人が対象。生活保護を受給するようになっても、自分で家計を管理して暮らしていけるようになれば、それは自立とみなしている。『当面の生活費だけほしい。あとは関わらないでいい』というニーズには応えられない」

 「一方で、生活保護があっても家計管理ができず困窮している人がいる。経済的援助である『現物給付』は、原則として生活保護受給者は対象外だが、そうした目の前で苦しんでいる人を助けないでいいのか、というジレンマもある。本人が果たすべき自己管理の部分と、官民から受ける支援のバランスをどう取って自立に導くかは難しい」

 ▼安河内 達さん 社会福祉法人三活会の特別養護老人ホーム「緑の里」(福岡県粕屋町)施設長。ライフレスキュー事業でサポーターを指導する「主任サポーター」。44歳。

=2019/04/24付 西日本新聞朝刊=