リアルなつながり求めて…平成世代「劇場」に集う 諫早

西日本新聞

「独楽劇場」の前に立つ管理者の寺井よしみさん 拡大

「独楽劇場」の前に立つ管理者の寺井よしみさん

「平成の終わりに」をテーマにした3劇団の公演。主人公のモブ子(中央)はツイッターをして休日を過ごす

 諫早市八天町の一角にある古いビルに、バーカウンターとホールを備えた小さな「劇場」がある。営業時間は夜。主に平成生まれの10、20代が集まり、演劇や音楽、朗読やボードゲームなど思い思いの時間を過ごす。「劇場」に通い、考えた。この世代にとって平成とは、どんな時代だったか-。

 居酒屋やライブハウス、パブなどに使われたというビルは3階建て。1階の入り口にはソファが置いてあり、棚には利用者が持ち込んだ漫画や絵本が並ぶ。「誰でも気軽に入ってもらいたい」と考えた管理者、寺井よしみさん(42)=大村市=の演出だ。演劇公演のチラシなどが壁に貼られた狭い階段を上がると、カウンターとホールにたどり着く。

 名称は「独楽(こま)劇場」。寺井さんがかつて所属し、諫早市で演劇などをプロデュースする「エヌケースリードリームプロ」(渡辺享介代表)が稽古場として借り「さまざまな表現者に使ってもらおう」と開放した。

 2月下旬の夜。劇場では長崎市や諫早市を拠点に活動する3劇団のオムニバス形式の公演があった。脚本担当も俳優も、全て平成生まれの10~20代。テーマは「平成の終わりに」。

 舞台に仮面で顔を覆った女性が立った。アルバイトで生計を立て、休日はツイッターなど会員制交流サイト(SNS)で時間を潰しているという設定の主人公「モブ子」。映画などの世界で「その他大勢」を指すモブが由来だ。

 仮面はSNSにあふれる匿名の「顔」を表している。その下の本当の表情は分からない。モブ子は叫ぶ。

 「本当は私だって、大事な人たちの顔を見ていたい。名前を、呼びたい。触れ合いたい-」

   □    □

 劇場では2017年からは毎月、県内の劇団が公演を行う「シアターバー」や、アマチュアミュージシャンが観客を巻き込んで自由に演奏を楽しむ「宴ナイト」などを企画している。ここに集まった客が好きな本を紹介する朗読会を開いたり、ボードゲームを持ち込んだりして、劇場は次第に「何でもあり」(寺井さん)の空間になった。1階を使って趣味のパステルアートやマッサージを披露する常連客もいる。

 中心にいるのがバーのマスターで、劇団を主宰する中野俊太郎さん(29)=諫早市。高校時代に不登校になり、母親が薦める市民劇団に入って演劇に出合った。2月の公演では、性同一性障害に悩む高校生をコミカルに描いた。

 平成2年生まれの中野さんは、平成という時代を「関係性」というキーワードで振り返る。

 「SNSで世界中の人とつながっているようでも、実感がつかめない。だから目の前の相手との関係性で成り立つ演劇や音楽、ボードゲームなどをやりたくて、ここに来ている人が多いんじゃないですかね」

 派遣社員として働きながら「モブ子」の脚本を書いた河浪恵梨さん(28)=長与町=も同意見だ。

 「平成とは、SNSで誰もが一方的に言いたいことを発信して、聞きたいことだけを聞くようになった時代」。主人公は自身をモデルにしたという。

 「モブ子は、ちゃんと相手の顔が見える場所を求めているんですよ」

=2019/04/26付 西日本新聞朝刊=