〈自分の机の上に、一つ済めば又(また)一つといふ風に…

西日本新聞

 〈自分の机の上に、一つ済めば又(また)一つといふ風に、後から後からと為事(しごと)(仕事)の集つて来る時ほど、私の心臓の愉快に鼓動している時はない〉〈実に好い気持ちだ。「もつと、もつと、もつと急がしくなれ」と私は思ふ〉

▼新聞社の校正係に職を得た石川啄木は、多忙ぶりを随筆「硝子(がらす)窓」に書いた。金も欲しい、本も読みたい、名声も得たい、旅もしたい…。数限りない希望はあるが〈この何にまれ一つの為事の中に没頭してあらゆる欲得を忘れた楽みには代へ難い〉

▼「働き方改革」の当世なら、すぐに「休め」と言われそう。だが、それほど没頭できる仕事に出合えるのは、ある意味で幸せかもしれない。4月に社会に出た新人さんたちはどうだろう。仕事に慣れたか。やりがいを感じているか。期待外れと落胆してないか。ストレスをため込んではいないだろうか

▼あすから大型連休。新入学生も含め、慣れない環境で張り詰めていた気持ちの糸が、ぷつんと切れそうになる時期だ。いわゆる五月病。ことしは10連休もあり、例年以上に気に掛かる

▼「“はなす”ことが大切」と心身医学の権威、久保千春九州大学長。「話す」は「放す」。感情を言葉にすることで心の解放につながるそうだ。仕事よりも心身の健康が大切。悩みやつらさは誰かに話そう

▼貧しさと結核に苦しめられた啄木。命を削って仕事や創作に打ち込んだのか、26歳で世を去った。

=2019/04/26付 西日本新聞朝刊=