「空気読まない」この1年

 早いもので、昨年4月にこのコラムが始まって1年がたった。

 連載第1回で私は「空気を読まない宣言」をした。世を覆う「空気」に流されずにこのコラムを書いていく、という意味である。

 小心者の私にしては、大それた宣言をしたものだ。この1年それができただろうか、と自問している。

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 初回の「ななめ読み」で取り上げたのは、劇作家の永井愛さんによる演劇「ザ・空気」だった。社内の空気にのまれ、政権批判の報道を自粛していくテレビ局員たちを描いた作品だ。1年前、永井さんはその続編を執筆中だった。

 続編となる「ザ・空気ver・2 誰も書いてはならぬ」は無事完成。昨年6月から東京・池袋で上演され、9月まで北九州市など全国各地を巡演した。

 首相官邸に隣接する国会記者会館の屋上が舞台。大手新聞社や放送局の記者が、首相会見の直前に見つかった「Q&A(会見の模範解答)」の作成者捜しを始める。居合わせたネットメディアも加わり、Q&Aを明るみに出そうとする記者たちと、首相を守るために握りつぶそうとする記者たちの攻防が演じられる。

 永井さんの問題意識は「政権とメディアの近過ぎる関係」にあった。この作品は好評を博し、毎日芸術賞と読売演劇大賞選考委員特別賞を受賞した。

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 読売の授賞の報を聞いて私はちょっと驚いた。

 この作品には政権べったりの「保守系全国紙のベテラン論説委員」が登場し、かなり戯画的に、そして批判的に描かれているからだ。もちろん永井さんは明言していないが、観客のほとんどが「読売新聞がモデル」と想像したであろう。

 今年2月に開かれた授賞式の壇上で、永井さんはこんな言葉を述べた。

 「この作品は読売新聞的にはかなりアウトなのではないか、ということは私も分かってます」

 「取材の過程でいろいろな方にお会いしました。今、日本のメディアは政権との距離によって分断されており、その中で苦闘しておられるジャーナリストがいます。そういう人たちの存在に励まされました」

 読売新聞の幹部が並ぶ会場で、なかなか空気を読まないスピーチではある。

 後日、永井さんに会って経緯を聞いた。「自分が批判する相手から賞をもらっていいのか」という相当な葛藤があったようだ。しかし「選考委員との問題意識の共有でもあるので、もらおうと決めた」という。生真面目な永井さんらしい。

 蛇足だが、私は賞を出した読売新聞にも「意外と懐が深いのかも」と少々感心したものだ。

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 さらに蛇足。

 この作品は実際の出来事を題材にしている。森喜朗政権の2000年、官邸記者室で首相に会見の切り抜け方をアドバイスする「指南書」が発見された(誰が書いたかは不明)。これを報じたのは西日本新聞の政治担当グループだった。

 メディアが他のメディアの報道姿勢を問題として報じるのは、当時としてはかなり思い切った決断だった。政治記者ムラの「空気を読まない」記事だったと言える。空気を読まない人間が世の中の古い常識を変えていく。その好例だろう。

 (特別編集委員)

=2019/04/28付 西日本新聞朝刊=

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