中国、ゆがんだ捜査 長期拘束の香港元店長語る

西日本新聞

 中国本土の禁書を扱い、中国当局に約8カ月拘束された香港の「銅鑼湾書店」の林栄基元店長(63)が先月、香港で西日本新聞の取材に応じた。林氏は拘束中、当局者に罪を認めるよう強要された上、香港に戻って書店を再開し顧客情報を中国側に流す“スパイ行為”も求められたと証言。香港の条例改正で中国に身柄を引き渡される懸念が高まったとして現在は台湾へ渡り、中国のゆがんだ捜査の実態を訴えている。 (香港で川原田健雄)

 銅鑼湾書店は中国共産党内部の権力闘争やスキャンダルを描いた本を販売。2015年に林氏ら関係者5人が失踪し、後に禁書を許可なく中国本土に販売したなどとして不法経営の疑いで中国当局の取り調べを受けていたことが判明した。

 林氏によると拘束されたのは15年10月下旬。訪れた深〓で入境手続き中に公安関係者ら約30人に囲まれた。浙江省寧波に連れていかれ、まず弁護士や家族に連絡する権利を放棄する文書に署名させられたという。

 取り調べでは連日、公安関係者が机をたたきながら「一生ここにいるか」と怒鳴り続けた。長く外部との接触を絶たれ「自殺も考えた」。罪を認める文書を書くよう強要され、うまく書けず何度も書き直しを命じられた。「最後は参考に渡された文面を書き写した」

 「法廷」にも何度か連れていかれた。本物の裁判所ではなく「演劇のセットのような場所」。取調官が法服姿で裁判官席に座り、カメラの前で「中国の憲法に違反し、違法な本を販売した」と言わされた。直前まで「寧波公安」の制服を着ていた女性が「証人」として座ることもあった。「民主主義社会では想像もつかない茶番だった」という。

 転機は16年6月。突然保釈され、香港に顧客データの入ったパソコンを取りに行き、再び深〓に持ってくるよう指示された。当初は同様に拘束されている仲間を案じ、指示に従うつもりだった。しかし、香港で拘束中の情報を集めるうちに異常な現状を理解し、香港にとどまる決意を固めた。

 「実は近く解放するから、香港で書店を続けて顧客情報を提供しろと公安関係者に指示されていた」と林氏は明かす。「当局は“国のため”という名目で私を操ろうとした。協力すれば被害者ではなく、裏切り者の加害者になっていた」

 「一国二制度」下にある香港と中国の間には容疑者引き渡しの協定はなく、林氏も香港にいれば拘束されない。だが現在、香港立法会(議会)で審議中の「逃亡犯条例」改正案が可決されれば、香港で拘束された容疑者の中国本土への引き渡しが可能になる。香港政府は「政治犯は対象外」とするが、民主派は中国当局が刑事事件をでっち上げ、活動家らの引き渡しを迫る恐れがあると指摘する。

 林氏は「事件が報道された自分はいい方だ。ひそかに罪をでっち上げられる危険性もある」と語る。林氏は拘束の懸念から逃れるため先月25日に台湾入り。移住を念頭に台湾での書店再開を計画中だ。

※〓は「つちへん」に「川」

=2019/05/06付 西日本新聞朝刊=

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