〈味は至って甘く、口中に入(い)るるに忽(たちま)ち溶けて、まことに美味なり〉…

西日本新聞

 〈味は至って甘く、口中に入(い)るるに忽(たちま)ち溶けて、まことに美味なり〉。幕末、日米修好通商条約を批准するため、幕府が米国に派遣した使節団の随員が日記にこう記した。〈之(これ)をアイスクリンといふ〉

▼これが日本人とアイスクリームの出合いとされる。初めて口にする食べ物のおいしさに、海を渡ったサムライたちが目を丸くする様子が浮かぶ

▼使節団の一員として渡米した町田房蔵は、日本にこの味を伝えたいと考えて製法を研究。150年前の1869年、横浜・馬車道通りに日本初のアイスクリーム製造販売店を開いた

▼「あいすくりん」の名で登場した新しい味覚だったが、当初は値段が高過ぎて、さっぱり売れなかったそうだ。今では、誰からも愛されるスイーツに。きょうは「アイスクリームの日」

▼アイスに縁のある日米修好通商条約は、米国の開国圧力に屈した幕府が、長崎などを開港して自由貿易を行うことを認めた協定。輸入品の関税率を自由に決められないなど、日本にとって不利な内容だった。日本はその後、不平等条約の改正を訴え続けたが、実現まで50年以上かかった

▼日米の貿易交渉は今もなお。米国第一主義のトランプ政権が、対日貿易赤字削減や農業分野の市場開放を強く日本に求めている。不利な条件で妥協すれば、幕府のように将来に禍根を残しかねない。国益を懸けた交渉は、いつの世もアイスのようには甘くはない。

=2019/05/09付 西日本新聞朝刊=

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