訪問歯科「20分」実際は3分 診療報酬不正請求相次ぐ 勤務偽装、モラル欠如

西日本新聞

福岡市中央区の歯科クリニックが作成していたある介護施設の訪問記録。午前8時25分~午後2時前までの間に、患者1人につき20分ケアしたことになっている。実際は午前9時50分から正午までしか訪れていなかった 拡大

福岡市中央区の歯科クリニックが作成していたある介護施設の訪問記録。午前8時25分~午後2時前までの間に、患者1人につき20分ケアしたことになっている。実際は午前9時50分から正午までしか訪れていなかった

 介護施設に訪問診療を行う福岡市中央区の歯科クリニックが、診療報酬を不正請求しているとの情報が特命取材班に寄せられた。行っていない検査費用を架空請求したり、実際には数分しか診ていないのに20分以上の診療報酬を請求したりしていた。取材を進めると、在宅医療のニーズが高まる中、役割の変化に対応できない医院の実態も浮き彫りになった。

 特命取材班はクリニックの訪問実態を複数回調査。ある施設には歯科医と歯科衛生士2人が入り、2時間でそれぞれ20人超を診た。その際の音声データには歯科衛生士が患者の歯磨きを数分した後、歯科医が入れ歯の洗浄と口の確認を2~3分で終える様子が記録されていた。歯科医の場合、20分未満なら診療報酬が3割低くなり、歯科衛生士なら請求自体できないが、20分診たことにして請求していた。

 70代の院長は取材に「そうしたことが多々あった」と不正を認め、訪問診療の前提となる検査も行っていなかったとも明かした。関係者によると、カルテなどに記載するうその訪問時間とのつじつまを合わせるため、勤務していない歯科衛生士を訪問記録に組み込むなどの偽装もしていた。

 厚生労働省の推計では、高齢化の進展などで在宅医療の需要は2025年までに約30万人増える見込み。一方で訪問診療を巡る不正は後を絶たず、1月には福岡市の60代男性医師が詐欺容疑で逮捕された。訪問診療も含め、同省が17年度に不正が疑われる医療機関に返還を求めた診療報酬額は約4億円に上った。

 九州大の丸谷浩介教授(社会保障法)は「自治体など保険者が不正請求を見抜くのは難しい。医療費の通知を患者や家族が見て気付くしかないが、分かりにくい記載になっていることが多い。どういう治療を受けたか分かるようかみ砕いて記載する書式に改めるなど、保険者側の工夫が必要ではないか」と指摘する。

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 不正を認めた院長は一方で、「検査や20分の治療が高齢者に負担になることもある。患者のためを思ってやったことで、うそも方便だ」と釈明した。これに対し、福岡県内の複数の歯科医や歯科衛生士は「意識が低い。時代遅れのやり方だ」と批判する。

 日本訪問歯科協会によると、介護保険が導入された00年当時の訪問歯科の役割はかみ合わせ改善のための入れ歯調整が主だったが、口内の細菌が食べ物と一緒に気管に入ることで起きる誤嚥(ごえん)性肺炎が注目され、予防のための口腔(こうくう)ケアや、嚥下(えんげ)機能回復のリハビリに重心が移ってきた。管理栄養士ら多職種と連携し、患者の経口での栄養サポートまで求められているという。

 歯科衛生士の役割もそれに伴って変化している。昨年の診療報酬改定では、訪問衛生指導に「口腔機能の回復や維持に関する実施指導」が追加され、歯磨きなど口の清掃だけでは請求できない仕組みになった。20分の時間要件があるのは「食べる」「話す」を支える専門家として、患者の家族や支援者が自らケアできるように導く役割も求められているからといえる。

 協会の前田実男広報担当理事は「訪問診療を受ける高齢者は全身疾患がある人も多く、家族や支援者と連携して健康状態を把握し、口の衛生面と機能面の改善を共に支えていく必要がある。いつまでも『出張歯医者』や『歯磨き補助』の感覚ではだめだが、意識改革ができない医院がまだある」と話した。

=2019/05/12付 西日本新聞朝刊=

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