脱「人質司法」じわり 拘束判断 地裁で格差 ゴーン事件で注目 「勾留は刑罰」誤解も

西日本新聞

 前日産自動車会長カルロス・ゴーン被告の逮捕や保釈を巡り、勾留の在り方は国内外から改めて注目された。弁護士らは「市民の関心が高まると、司法も意識する。厳格な身柄拘束の判断が浸透する好機」と期待を寄せる。一方で、勾留却下率が高い地域では捜査機関の受け止めは複雑。ネット上の書き込みなどからは、市民の理解が進んでいない側面もうかがえる。

 昨年10月、約30万円の収賄容疑で熊本県玉東町の建設課長(当時)が逮捕された贈収賄事件。熊本地裁は勾留取り消しを求めた弁護人による準抗告を認め、建設課長は釈放された。

 逮捕から3日、地裁が検察による10日間の勾留請求をいったん認めた直後のことだった。「汚職事件で、まさか」。県警に衝撃が走った。

 熊本地裁は2018年、全国で2番目に勾留却下率が高かった。13年ごろから贈収賄や強盗など「これまで必ず認められていた」(県警幹部)という容疑でも勾留請求が却下されたり、取り消されたりするようになったという。

 複数の県警幹部は「あるベテラン裁判官が来てから、判断が厳しくなった。その影響で捜査は長期化するし、勾留しておけば防げた事件もある」と不満を漏らす。

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 勾留の目的は事実認定のためとされ、刑事訴訟法は(1)住所不定(2)証拠隠滅の恐れ(3)逃亡の恐れ-がある場合に認められると規定している。再犯防止や刑罰としての機能は、本来はない。

 現実に身柄拘束が広く認められてきた背景には、罪を犯した疑いのある人間を一定期間、社会から隔離するという社会防衛的な見地もあったとみられる。

 勾留は否認するほど長引く傾向にあり、長期の身柄拘束で容疑者に圧力をかけて自白などを迫る「人質司法」への批判は根強い。09年に郵便不正事件で逮捕、起訴され、無罪が確定した元厚生労働省局長の村木厚子さんは一貫して否認し、164日間勾留された。

 日弁連刑事弁護センター委員長の西村健弁護士は「長期拘束を伴う人質司法は、うその自白などで冤罪(えんざい)を誘発してきた」と指摘。裁判員裁判制度の導入もあって司法が「市民の目」を意識するようになり、勾留に対して慎重な流れが生まれたとして「市民の関心も大切」と説く。

 昨年12月には東京地検特捜部が逮捕したゴーン被告について、東京地裁が勾留延長を認めない異例の判断を示し、注目された。

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 ただ、勾留に対する理解が一般に浸透しているとは言い難い。

 今年4月、東京・池袋で旧通産省工業技術院元院長(87)の乗用車が暴走し母子が死亡、神戸市では市営バスが横断歩道に突っ込み8人が死傷する事故が相次いだ。バス運転手(64)は逮捕・勾留されたが、元院長は入院中などの状況から任意の取り調べとなった。

 ネット上では「なぜ片方だけ逮捕されるのか」「元高級官僚だから特別扱いしているのでは」といった声が上がり、立憲民主党の有田芳生参院議員も「なぜ逮捕されないのか。警察庁に問いました」とツイッターで発信。賛否両論の声が寄せられた。

 西村弁護士は「勾留が刑罰や再犯防止目的のように誤解されている」と指摘。「長期の勾留で勤務先や家庭を奪われることもある。ゴーン被告の件で光が当たった。勾留への正しい理解が広がり、裁判官にも厳格な判断が定着してほしい」と話した。

=2019/05/13付 西日本新聞朝刊=

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